Fujioka Nobuyo

インテリアエディター

インテリア雑誌『PLUS1LIVING』ハウジング雑誌『はじめての家づくり』などの編集長を経て、現在では『編集脳アカデミー』主宰として住宅や編集に関するセミナーやコンサルティングを行う。

「居心地のいい家」のつくり方

里山住宅博 in KOBE 2016

さとやまじゅうたくはく

神戸市北部に広がる自然豊かなこの地域は、大阪北摂、神戸、播州、丹波篠山など、様々なエリアを結ぶ交通アクセスの要に位置する。『里山住宅博 in KOBE 2016』では、気鋭の建築家や工務店が37区画にそれぞれの木の家を建てることで、「暮らし」に重点を置いた郊外の新しい可能性を提案している。すべての展示住宅は会期終了後に実際に販売され、「上津台百年集落街区」となる。

12「永遠の家」は、普遍性と特別感のバランス

特別インタビュー|フクダ・ロングライフデザイン 福田明伸社長

place - プレイス(神戸市:パッシブZEH 里山住宅博モデル)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

最終回は、フクダ・ロングライフデザインの福田明伸社長に、「いい家づくりとは?」というお話を伺いました。

1年にわたってコラムを担当させていただき、ありがとうございました。まずは率直なご感想を伺ってもいいですか?

インテリアに関しても暮らしに関しても建物に関しても、共感することばかりでした。こう言ってはなんですが、インテリア雑誌の編集者でおられたのに、作り手の言いたいこともおっしゃっていただいたと感じています。

具体的にはどんなことですか?

place - プレイス(神戸市:パッシブZEH 里山住宅博モデル)
/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

家づくりの最初にこそ、こだわらなくてはいけないところがある、という点ですね。お施主さんは皆さん、どうしてもすべてを最初から押し込もうとするので、それは無理があるんですよ。時間とパワーと気力と、もちろん予算もありますし。当事者である工務店が語るのではなく、藤岡さんのような第三者が、また家づくりの経験者として情報をキュレーションしていただいたのがよかったと思います。

コラムのテーマにもなっていましたが、「本当にいい家って何なのか?」ということですよね。私の大好きなルイス・カーンという建築家も言っていることなんですが、いい家というのは、施主さんにとって特別な何かがあるのはそのとおりなんですけれど、一歩引いて、作り手や第三者が見ても「いい家やな」と感じる、普遍性がある。そのバランスを築いた家こそ、ずっと残るものなんですね。

カーンは「永遠の家」と言っています。何世代も住み継がれる「永遠の家」というのは、自分のものだけじゃない。普遍性があって、そこに施主さんにとっての特別感をバランスしてあげることが大事だと思っています。

その普遍性というのは、具体的にはどんなことがポイントになりますか?

私が考える普遍性は、その土地が欲しがっている要望ですね。たとえば、光はこちらから取ってほしい、風はこちらから入れてこちらに抜いてほしい。土地が「こう建ててくれ」って言ってくるんです。

place - プレイス(神戸市:パッシブZEH 里山住宅博モデル)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

へぇ~、おもしろい。

それが機能面での普遍性だと、まず思います。
それから、素材の普遍性もありますね。10年後、20年後、30年後に常に手に入る材料で作ることができるか。「メーカーさんの○○シリーズは、3年後には廃番になりました」というのは、いやというほど繰り返されてきましたからね。既製品の扉に穴が開いちゃったから、取り換えたいんだけれど、ドア枠と微妙に色が合わない。枠ごと換えないといけない。こういったことは、すごい理不尽やな、と思うんです。

新建材の家づくりというのは、こういったことが繰り返されてきていますよね。そうではなくて、漆喰(しっくい)なり、木の無垢材なりを使えば、何年後かに継ぎ足すことになってもおかしなことにならないです。 木の無垢材は一つ一つ表情が違うことが魅力なので、何年後かに同じ材料をつぎはぎしても、もともと表情が違うので何の違和感もない。
漆喰(しっくい)も部分的に上塗りすればいいので、ビニールクロスみたいに「パッチワークして、かっこ悪い」ということもないです。サスティナブルと言われていますが、昔から使われていて、いまだに残っている材料は、手間はかかるけれど普遍性がある。自然素材というのは、ナチュラルで、空気も汚さずにいい、というイメージもありますけれど、長い目で見て、次の世代に渡していける材料だと思います。

家が家族の成長に合わせる部分があってもいい

普遍性にはフレキシビリティーもあります。
間取りや構造の部分で、造りこむべきところと、そうでないところという点ですね。ワンフロア・ワンルーム的な空間で、耐震壁では極力間仕切りをしないで、住み手の家族に合わせて必要な仕切りを入れるようにする。家族の成長に合わせて間取りを変える、というところがあってもいいと思うんですね。セカンドオーナーに住み継ぐときには、中の仕切りを外せばいい。断熱とか外壁とか防水といった大事な部分は、次のオーナーもそのまま使える。そういう造りは普遍性があると思います。

用途ごとに空間を区切りつつ、フレキシブルに変化できる設計の一階部分

たとえば、キッチン、ダイニング、リビングと一列につくる間取りってあるじゃないですか。そういったLDKで1つの空間というのは、愚の骨頂という気がするんですね。リビングと、ダイニングキッチンとは用途が違うから、居心地のいい空間のあり方も違うと思うんです。

このモデルハウスで言うと、中央に階段をはさんでいますから、これは変えられない部分です。ただ、個室というのは5年単位くらいで変化していかなければいけない、ということを見越して、仕切りを入れたりして間取りを変えていくという発想になっています。この形はキープしなければいけませんから、あとは白い壁をどう飾るかだと思います。

私は、逆に制限があったほうが、インテリアのセンスは磨かれると思うんですよ。間取りは変えられないから中をどうしよう?というのが、インテリアだと思うから。あるもので工夫しないのかな、と思うところはあるんですけどね。

私たちはハードとして家を作っていて、暮らしやインテリアはソフトですよね。引き渡し前の、フローリングとしっくいの壁しかない家が、そこに住んだあとはどうなるのか。「見比べてみてください」とお客さんによく言うんです。住まいが一つ一つ違って見えるのは、ソフトが入るからなんですね。私たちができるのは、せいぜい棚をちょっと作ることぐらい。「それしかできません」というのは、よく言いますね。

いい家づくりの極意は、過程を楽しんで愛着を持つこと

こういうふうに建てると、施主さんにとってもいい家になるという方法があれば、作り手の立場から教えていただけますか?

place - プレイス(神戸市:パッシブZEH 里山住宅博モデル)
/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

究極の難しい質問ですね(笑)。
とりあえず最初は、ぜ~んぶの要望をまな板の上に載せていただくんですが、それは私たちも知っておいたほうがいいんですね。そこから、もう一度、ご自身たちで優先順位をつけて、最終的にAランクの譲れないことを決めていただく。それが○○邸としての共通解であれば、ベストなんです。
要望を削ぎ落していく作業を通して、ちゃんとご自身たちで選ぶ作業をする。それを途中で投げ出して、全部、設計に投げてしまって、出てきた提案に対して返事を出す、ということを繰り返しているだけでは、いい家づくりは難しいですね。夫婦としての会話も足りないし。

喧嘩をしてもいいと思うんです。よく話し合いの途中で、奥さんが泣いてたりしたこともありますけど(笑)。「自分たち夫婦にとって、家族にとって何が大事なのか」、決められた時間、限られた予算の中で、答えを出していくことが大事だと思います。
要するに、施主にとって何が特別なのか、ということですよね。「自分たちにとって、変えられない大切なものって何なんだろう?」ということが、家という切り口で見えてくるということだと思います。

そこまで深く考える機会は、日常生活にはそんなにないのかなと思いますね。

そう思います。
普段は喧嘩されない方が、家づくりになると喧嘩(笑)。「そんなことを考えていたのか?」となるんですが、そこはちゃんと仲裁する私たちが居て、バトルしていただいています。でも、お互いに意見を言い合っているだけでは、無理なんです。
「そういうふうに考えているのか」という尊重の気持ちと、「気づいてうれしい」という気持ちが、家づくりを通して初めて見えることもある。その過程を楽しむ。そういう会話ができるのも、家づくりのときだと思います。

結果的に、それをクリアしたのが、うちのお客さんだと感じます。たいていご夫婦でバランスよく、旦那さんはハードウエアで、奥さんはソフトでとうまく役割分担されておられます。性能とか耐震とか基本性能の部分と、お金の部分はだいたいご主人が担当されて、それ以外のインテリア、照明、設備は奥さんが楽しんでおられる。その様子をご主人が微笑ましく見守っている。こういう関係のご夫婦は、全然、話し合うのが苦じゃないでしょうね。

place - プレイス(神戸市:パッシブZEH 里山住宅博モデル)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

家づくりは「買い物」じゃない、ということなんですよね。

カタログ買いをしたい方は、そもそも工務店の家づくりは選択されないです。せっかく工務店で注文住宅を建てるのであれば、家づくりの過程を楽しまないと、絶対にもったいないですね。1年間かかることもありますし。皆さんが必ずおっしゃるのは、「これだけの職人さんの手がかかるのか」と。もっと素早くできていくのかと思った、とおっしゃるんです。
実は、家づくりは工業化されていないところがたくさんあって、現場作業が多い。20業種100人以上の職方さんが携わるので、ありがたみと愛着がわくようです。「家って手作りなんだな」というご感想も、よくいただきます。

家づくりは、過程も大事ですし、関わった職方さんへの尊敬も含めて、ご夫妻にとってはほんとに貴重な体験だと思うので、そのことから「いとおしい」という気持ちが出てくると思うんです。そういう家を愛でようという気持ちで住んでいると、センスあるなしに関わりなく、すごく素敵に住んではるな、となると思うんです。状態もよくて、庭のお手入れもちゃんとされていて、自然素材のいい経年変化があって、遊びに来るお友達もほめてくれる。
最終的には、人から「欲しい」と思ってもらえる家になると思います。そうしたら、もう一度、家づくりの楽しい体験ができるかもしれないですよね。そんな家づくりが理想だと思います。

「居心地のいい家」のつくり方

1

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