Fujioka Nobuyo

インテリアエディター

インテリア雑誌『PLUS1LIVING』ハウジング雑誌『はじめての家づくり』などの編集長を経て、現在では『編集脳アカデミー』主宰として住宅や編集に関するセミナーやコンサルティングを行う。

「居心地のいい家」のつくり方

5「暮らしにピッタリ合う」家は、本当に必要?

I邸(箕面市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

収納を作り込む必要はある?

前回は、「あとで変えられないものこそ大事にしよう」というテーマで、暮らしの心地よさのベースになる「採光」と「通風」の話をしました。
今回は、ほとんどの人が家づくりの目標にしている?かもしれない「カスタマイズ」について、考えてみたいと思います。実は、私は、「カスタマイズって、本当に必要なの?」という疑問を持っています(笑)。

住宅雑誌の仕事で新築の実例取材をすると、必ずと言っていいほど「ここは持っている冷蔵庫に合わせて設計してもらいました」とか、「持ちものの数に合わせて収納をプランしてもらいました」というお話が出てきます。設計士さんも施主さんも、とても誇らしげです。
最初のうちは、うんうん、設計士さんとゼロから家を建てる醍醐味ですね~、と思って聞いていたのですが、3年、4年と経験を重ねるうちにだんだん疑問に思うようになりました。
なぜって?
持ちものは、たいてい家よりも寿命がはるかに短いからです。

冷蔵庫に合わせて収納を造作したキッチンで、その後、冷蔵庫を取り換えたために不恰好なことになっている家を見たことがあります。元がしっかりデザインされているがゆえに、合わなさ加減がなんとも目につきました。
洋服や食器も、いつまでも同じものを同じ数だけ持っているとは限りません。お子さんの教材関係や、ご自身の趣味の道具だって、永遠に使い続けるわけではありません。
暮らしで使うアイテムは、意外に変動するもの。
ライフスタイルだって、実はそうです。

「子育て住宅」として使えるのは、何年?

ある一時期の家族のライフスタイルに合わせて、家を作り込むべきではない。
そう強く確信したのは、15年くらい前に流行り始めた「子育て住宅」を頻繁に取材するようになったころです。

お子さんが生まれた、お子さんが就学する、というのは、住宅を売る側からすると、ものすごいセールスのチャンスです(ちょっとイヤな言い方ですけれど)。子どもの教育や将来を考えたら、ちょっとがんばって家を建てるか。そんな気持ちに強く訴えるには、「子育て住宅」というコンセプトは、ピンポイントに刺さる強さがあると思います。
次々に発表される「子育て住宅」のモデルハウスを取材して、ほんとうに小学校低学年の子どもがいそうだと感じました。開放的で、のびのび走り回れて、家のどこからも家族の気配が感じられて……。

その次に、私は何を感じたと思います?
なんと私はその家の子になって、高校生になったときのことを想像したのです。
「なんだか、いつも親に見られているようで、うざい!!」
小さな子どもにいつも目が届く……ということは、年頃の子どもにとっては、親の目から隠れるところがない、ということ。

自分がここの家の子だったら、嫌だなぁ。家に居場所がなくて、外をふらつく子になってしまうかもしれないなぁ……と思ったのです(笑)。

そのときの流行は、「子育て住宅」=子どもを見守る家、というコンセプトが多かったのですが、見守らなければならない時期はほんの数年で、そこからは「そっと見守る」「気づかれないように見守る」「つかず離れず」と、親子の関係も変化していくのではないかと思います。
ある一点(一時期)に注目してつくると、確かにわかりやすい家ができるのですが、やはり住まいとはそういうものではない、と思うのです。

たとえ今は保護が必要な子どもであっても、高校生くらいになればほとんど大人です。最終的に大人が何人住む家になるのか、と考えて、必要な数の個室と、家族みんなで使うダイニングやリビング、バスルームなどを整える。
家族に合わせるといっても、その程度のことでいいのではないでしょうか?

T邸(八尾市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

間取りもフレキシブルが心地いい

家を家族に合わせるのではなくて、住む側が家に合わせてもいいんだなぁ、と思ったことがあります。それは、カナダのバンクーバーで実例取材をしたときのこと。100年以上経ったヴィンテージ住宅に住むのが、ちょっとしたステイタスになっているとのことで、何軒かお住まいを見せていただいたのです。

日本には「古い家屋にありがたく住む」という感覚があまりないので、ヴィンテージと言っても、中古住宅の一つです(笑)。古いところは直して、自分たち好みにリノベーションして……となると思います。
けれども、欧米にはできるだけオリジナルを生かして住もう、という文化のようなものがある。実際、ヴィンテージ住宅にはリノベーションの規制もかかっていました。だから、もちろんリノベーションはするにしても、大きな間取り変更はしないで、むしろ「この部屋はもともとダイニングルームで……」と、オリジナルを大事に残したりする。
その上で、使い道は大胆に変えていたりするのです。

本当に面白いなぁ、と思いました。
彼らにとっては、部屋はひとつの空間であって、それを「どう使うか」によってダイニングになったり、リビングになったりするのです。最初からダイニングとして作ってある必要はない(そうであったとしても、変えてしまう。笑)。
家を自分たちに合わせてカスタマイズしたがる日本人と、ヴィンテージ住宅に合わせて住みこなすカナダ人、どちらが住まいに関して自由かと言ったら、絶対に後者だと思うのです。

まぁ、そんな経験もあったので、11坪しかない三角形の敷地に建つ中古住宅を買う、という決断もできたのでしょうね(笑)。

マンションの和室は、実はフレックスな空間

話を元に戻すと、家を建てる時点での家族構成がどうあろうとも、部屋(空間)が必要な数だけ確保されていればいいんじゃないかな、と思うわけです。さらに、そのときどきの使い方ができるフレックスな部屋があれば、もっといいと思います。

たとえば、インテリア雑誌にいたころ「使えない部屋」の象徴のように言われていた(笑)、リビングダイニングに隣接した和室(マンションの間取りでありがちだった)ですが、この部屋なんて、むしろフレキシビリティの象徴だと思います。

 

Y邸(大阪市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

子どもが赤ちゃんのうちは日中を過ごすナーシングルームになり、子どもが小さいうちはおもちゃを思いきり広げられるプレイルームとなり、小学校低学年のうちは学習机を置いてスタディルームにもなるでしょう。子どもがもっと大きくなれば、夫婦の趣味のものを置くホビールームになったり、たまに遊びにくる祖父母のためのゲストルームになったり、いずれ子どもたちが巣立った後は、孫たちとともに泊まるゲストルームにだってなるのです。夫婦ふたりの生活が長くなれば、いずれはケアルームにもなるかもしれません。

「いずれは、こんなふうにも使えるしな」と、ユルく考えておく部屋があってもいい。
そんなゆとりの空間はない、という場合は、各個室がそうやってフレックスに使えるように、なるべく作り込まない。四角い部屋+収納、くらいのシンプルなプランにしておけば、いずれ違う目的に使うこともできると思うのです。

そう考えると、「できるだけカスタマイズしない」というのが、家づくりの極意なんじゃないかな、と思ったりします。

Chat with the Curator

藤岡 信代
キュレーター 出来 忍

2016.2.1

今回はカスタマイズしたがる日本人と、ヴィンテージ住宅に合わせて住みこなす
カナダ人のところが「なるほど!」ポイントでした。 少し前までは「収納力のある家」は必須条件のように、販売業者はみんな言っていたんじゃないかと思います。ですが、「断捨離」という言葉が出てきてからはなんだか、要らないモノを受け入れるスペースのような気がしてきました。
生活に必要なモノって一体どれくらいなんでしょうか?(個人差がありますよね)
私もベットサイドに壁をおこして、壁の向こう側に2畳分の半オープンスペースを作りましたけど使いこなせてない感は半端ないです。笑、、スペースがあると油断してアレもコレも手元に置いておくようになってしまします。コレはとても危険です!
リノベーションするときにもっと(何年経っても)誰からも愛されるような中古物件を目指せばよかった、、、なんてことを藤岡さんからの学びで思いました。

2016.2.8

「収納力のある家」はとても魅力なので(笑)、ついついスペースを作ったり、ものに合わせて作り込みをしたくなりますが、実は自分自身の「整理能力」「管理能力」のほうが、「収納力」に直結するんですよね~。いままた「ものを持たない暮らし」が注目を浴びていますが、ほんとに、暮らし方ひとつなんだな、と感じます。 日本にも、「住まいに合わせて暮らす」という文化はずっとあったはずなんですよね。第2次世界大戦までは、東京はほとんどの人が賃貸住まいだったと聞いています。伝統的な日本家屋は、畳敷きでふすまや障子の間仕切り、収納は押し入れ、というのがお決まりのパターン。暮らしている人が、きっと暮らし方や持ちものに合わせて工夫していたんだろうな~と思います。 家の造りはシンプルのほうが、いろいろな暮らしの受け皿になるし、住み継ぎやすい。その上で、住んでいる人らしさが出るのが理想です。あとで変えられる壁の色や壁紙、ドアや窓などの建具、キッチンなどはどんどんカスタマイズする!という提案は、どうでしょうか?

2016.2.15

「カスタマイズ」というフレーズが出てきたときは、住み手が変わった時にも
対応できる部分で思う存分に発揮することがイイのですね。 数年前に某電機メーカーがドラム式の洗濯機に合わせて高さを揃えてシリーズで発売したモノがありました。スタイリッシュで機能性も兼ね備えていました。その時期に新居を建てた友達はそのシリーズで全て揃えたのですが、数年後に洗濯機だけ壊れてしまい買い替えることに!同じ高さの洗濯機はなく作った台の高さには収まらず、違う場所に洗濯機を設置することになりました。動線も悪くなりスタイリッシュからも見放されたっと嘆いておりました。でも、そのお話をとても楽しそうにしていたので家を建てたときのイイ思い出になっているんだっと思いました。
今回のお話はユル~く考えれるフレックスな空間を優先して考えるのも大切だな~と思いました。
「フレックス空間」とは、自分にとっても他人にとっても同じ条件が当てはまりますものね。(状況に応じて対応できるスペース)  

2016.2.22

出来さん、ひらめきましたよ! 「カスタマイズこそ、DIYで!」という提案はどうでしょうか? ベースになる建物はフレックスな空間にして、暮らし始めてライフスタイルができてきたら、それに合わせてDIYで手を入れる。DIYでつくる棚なら取り外しもできるだろうし、プロに頼んでつくってもらう場合も外せるようにしてもらう。というか、欧米の住まいづくりって、だいたいこのパターンですね。壁に色を塗ったり、棚板をつけたり、自分好みにするところはDIYが基本だし、住みながら手を入れます。
あと、いずれ売ることを考えるのであれば、建物は「社会のモノ」っていう意識も大事ですね。社会の財産として価値のあるものを建てる、という責任感が必要かもしれません。    

「居心地のいい家」のつくり方

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