はじめまして。
福岡の端っこの海にはさまれたところでこれを書いています。
ここで生まれてここで育ち、15年間この土地を離れて、今またここ戻ってきました。もう戻ってきて2年になるけれど、毎日海を見て空を見て、そうやって自然の中に身を置いていると、風の中に、夜の匂いのそこかしこに、いろんな気配がして生まれて育った場所でなつかしさにむせかえるようにくらくらして。時々夢の中かなと思うほどです。
地元の大学ではデザインを学びました。文字の美しさ、写真の配置、デザインの歴史などに触れ、美しく誌面を構成していくことに興味を覚え、グラフィックデザイン、いいな、やってみたいと漠然と考えていました。
卒業制作で本を制作した時に、毎日流れて日々消費されていくデザインに恐怖を覚え、なにか、こう、手でひとつひとつ作りたいと思っていたときに出会ったのがキャンドルでした。蝋を溶かして、色をつけて、型に入れて固める、それだけの単純なしくみにドキドキしたのを覚えています。無我夢中で蝋を溶かして固める、そんなことばかりやっていました。でも基礎が全然わからない。なんとか固まって形になっても趣味の範囲を超えられない。その時に本で紹介されていた横島憲夫氏に手紙を書き、なんとかキャンドル教室の扉をたたくことができました。
上京し幸運にも横島氏のアシスタントとして働くことができ、いきなり岐阜のキャンドルショップをまかされることになってしまいました。右も左もわからずキャンドルの基礎もわからない世間知らずの22歳の小娘です。接客も販売もなにもかもが初めて。多分横島氏に試されていたのだと思います。
「おまえは毎日そうじだけやってろ」
「おまえには何も教えない」
「素人のおまえがふざけたことをするな」
しまいには「おまえはまだ中身が何も無いから1年間キャンドルを作るな」とまで言われてしまい、制作禁止令が出てしまいました。何よりもキャンドルを作りたくてしょうがないのに作れないとは。その間、人の作品を食い入るように見て研究です。実際販売しないといけないので、何時間燃焼してどうやって溶けていくかなど家で灯したりして、あの時が一番キャンドルを灯していたと思います。
何も教えてくれない師匠の後ろから真剣に盗み見です。師匠の制作後のそうじは、その日どんな材料を使ったか、どんなゴミが出るのか。そうやって師匠のもくろみにまんまと乗せられていったのです。蝋の種類、融点、芯の太さなどの基本的なことから、制作過程を想像して材料や道具の準備をすることまでいろんなことを自分の頭で考えることをその時に徹底的に叩き込まれました。
横島氏の下で2年間過ごして後、フリーになった私は縁があって京都に行くことになりました。
そのお話はまた後ほど。
1
8月29日公開
京都、そして地元の福岡へと活動の拠点を移しながら、自然をモチーフにしたキャンドルを作るnuri candle。どこか懐かしく、でも見たことがないような新しいスタイルのキャンドルはどのように生み出されているのでしょうか?注目を集めるキャンドル作家の魅力に迫ります。
2
9月26日公開
父親の転勤を機に引っ越した京都。四季折々の美しい自然や文化に触れながら、生きていることの実感と自己表現に対する葛藤のあいだでひたすらキャンドルを作り続けた日々は、充実した創作活動の時期となりました。
3
10月31日公開
求められるものを作らなくてはいけないというプレッシャーから解放してくれたのは、多摩川の河川敷で開催される「もみじ市」への出店の誘いでした。一ヶ月前から準備を始め、集中して自分の作りたいものを作る時間は、nuri candleにとって何よりのギフトとなりました。
4
11月28日公開
古くなった蝋燭を砕いてみると、結晶化した欠片が鉱物のように見えた…。そんなきっかけで繋がったキャンドルと鉱物の世界。鉱物をこよなく愛した宮沢賢治の詩集を読んだり、漫画『宝石の国』のキャラクターの公式イメージキャンドルを作ったり、ついには鉱物キャンドルの本を執筆したり。nuri candleと鉱物の出会いから生まれた神秘的な鉱物キャンドルの数々をご紹介。
5
12月26日公開
「精油は瓶の中でまだ生きています」この言葉から生まれたのがnuri candleのアロマキャンドル。火を灯すと精油の生きた効用が広がる、まるでお薬のようなキャンドルです。そんな特別なキャンドルが、美しいレリーフに覆われて特別な空間と時間を作り出すことは言うまでもありません。
6
1月30日公開
「いつも気持ちをまっさらにして作業台に向かうこと」時には感覚を研ぎ澄ませて、真夜中の絵付け作業から明け方の海辺へと移ろっていくことも。福岡の自然のなかで、今の自分が作りたいものにまっすぐに向き合うことこそが、火を灯した瞬間に魔法が広がるnuri candleの魅力の秘密のようです。連載最終回。