テキスタイル表現のなかでも親しみ深いアイテムのひとつに「ハンカチーフ」をあげることができます。マリー・アントワネットの進言をきっかけに18世紀のフランスから始まって、現在のスタンダードな形となった正方形の布地。そのカタログやアーカイブとしても編集しやすい真四角な形状は、図案を描くカンバスとしても、とても魅力的です。
例えば、オランダのデ・ステイルから波及した、正方形の出版物は、古書のなかでもで根強い人気がありますし、LPサイズのレコードジャケットに親しんだ世代では、ジャズではブルーノート、ロックではピプノシスのアートワークなど、真四角に描かれた斬新なビジュアルに新しい音楽の到来を予感することもあったはずです。
編集部注:「デ・ステイル」20世紀前半にオランダやイタリアなどで刊行された、新造形主義に基づく建築やデザインなどを題材とした雑誌
編集部注:「ピプノシス」ピンク・フロイドやレッド・ツェッペリン、松任谷由実などのアートワークデザインを手掛けたイギリスのデザイングループ
コレクションしやすく納まりのよい正方形の構成美に加えて、布としての使い勝手がよく、気の利いたギフトにも使える、そんな多彩な「用の美」の魅力を備えているのがハンカチーフなのだと思います。
似た用途の布地として、伝統的な注染による日本手拭いをあげることも出来ますが、国内旅行ではご当地の手拭いを買い集め、海外旅行では様々なお国柄のハンカチをコレクションしていく、そういう楽しみ方もありそうです。
ここ10年の出来事に、繊維業界の長期に渡る業績不振と、一方でのファストファッションの流入がありますが、モノが溢れかえり、より個別化された付加価値を求めていく時代にあって、コストや在庫や売り上げを気にしながら大量生産されていたファブリック類よりも、適正規模で選択肢を増やしていけるハンカチーフの企画制作に注目が集まり始めているようです。
特に新進の作家達にとって、少ないリスクで、コンスタントな表現活動が可能ですし、無地のハンカチに布地用のペンで描いたり、シルクスクリーンでプリントしたりと、ワークショップの素材にもなりそうです。なかには、布地の特性を生かして、団扇として応用されるなど、新しいプロダクトとしての可能性も感じることができます。
世田谷の三宿を拠点に全国展開しているハンカチ専門店「H TOKYO」では、オーソドックスなタイプや海外のデッドストックに加え、気鋭のアーティストやデザイナーの作品も数多く、特に女性作家達の手描きのシリーズは多彩で魅力的です。
私自身も、これまでに新旧50種に及ぶ図案をハンカチーフにしていただいていますが、数あるテキスタイル表現のなかでも、取り分けポップでバリエーションに富んだ魅力を放つ、ハンカチーフによる表現の広がりに、いつもワクワクさせられています。
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3月8日公開
シンプルな色と線が織りなす図案の中にどこか懐かしさを感じる有田昌史さんのテキスタイル。作品を生み出すためのインスピレーションとなるのはその土地に根ざした心象風景。ご自身の出身地である島根県出雲に伝承される文化や神話が色濃く反映されています。
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4月12日公開
テキスタイルがまだ現在のように固有の芸術的地位を確立していなかった頃、有田さんの生み出す作品はファッションやデザインの世界で注目され、「新しいフォークロア感覚を布に描いて衣食住へと広げたい!」という初期の想いが結実していきました。
3
5月18日公開
現在は東京都町田市にある「しぜんの国保育園」内のsmall villageを拠点にしている有田さん。「子どもの成長、発達に寄与する人はすべて保育者」という園の基本理念に賛同し、自然豊かな環境で子どもたちに囲まれて創作活動を行っています。
4
6月18日公開
自ら描いた図案が暮らしの中の様々な場面で活用されること、有田さんはそこにテキスタイルの魅力を見出します。また、その制作過程において多くの人々が関わり、ものづくりを通じたコミュニケーションが生まれることもテキスタイルの醍醐味です。
5
8月9日公開
新しい表現活動の場として有田さんが注目するのはハンカチーフ。そのシンプルな形状と、安価でリスクの少ない素材は、テキスタイルの世界にポップでバリエーションに富んだ表現の広がりをもたらしてくれます。
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9月13日公開
100年後の未来に残るもの…。有田さんは、変わることなく親しまれる普遍的な魅力を持った未来のテキスタイル表現に思いを馳せます。いつか最新のテクノロジーを使った画期的な新素材が開発されたとしても、テキスタイルの役割は形を変えながら残り続けるでしょう。