Fujioka Nobuyo

インテリアエディター

インテリア雑誌『PLUS1LIVING』ハウジング雑誌『はじめての家づくり』などの編集長を経て、現在では『編集脳アカデミー』主宰として住宅や編集に関するセミナーやコンサルティングを行う。

「居心地のいい家」のつくり方

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10家づくりでこだわるべきは、「見せ場づくり」

「見せ場」のない家は、素材がよくてもおしゃれ感がない

今回は、かっこいい家、おしゃれな家には何が必要?という視点からお話してみようと思います。
かれこれ10年くらい前、ハウジング雑誌の現役の編集者として戸建ての実例を取材していたころ。自然素材にこだわった家を取材したことがあります。壁は漆喰、柱も太くて立派な無垢材を使っており、フローリングももちろん無垢の厚みのあるもの。光や風の通り道もきちんと設計されており、住まいはとても気持ちのいいものでした。

でも…、おしゃれじゃない。かっこよくない。
なんというか、のっぺらぼうな家、という印象を受けたんです。

その理由は、施主さんのお話を伺ううちにだんだんとわかってきました。施主の若いご夫婦は、生まれてくるお子さんのために素材や空間にはこだわっていたのですが、家具やアートや雑貨を飾ること、つまりインテリアを整えることにはほとんど関心がなかったのです。だから、家具は空間とマッチしておらず、目を引くものがないので、何を見たらいいのか視線が泳いでしまう。インテリアをセンスよく見せるには、空間の「見せ場」がないとダメなんだ。そのことを、それ以来、強く意識するようになりました。

空間の「見せ場」とは、インテリアコーディネートの用語で言うところの、「フォーカルポイント」です。フォーカルとは、英語で焦点という意味。つまり、焦点があたる場所、ということになります。

私が最初にこの言葉に出合ったのは、ガーデンデザインの取材をしていたとき(もう20年も前になります)。イギリス人ガーデナーと、実際に庭づくりをしながら雑誌連載を書いていたのですが、彼がデザインしたプランに、Focal Pointと書かれていたんですね。
「イングリッシュガーデンには、必ずフォーカルポイントが必要です」というのが、彼の言葉でした。

あとになってわかったことですが、「空間にはフォーカルポイントが必要」というのは、イギリスのインテリアデザインの基本にある考え方です。イングリッシュガーデンには、部屋のようにデザインする“ガーデンルーム”という手法があって、アウトテリアもインテリアも同じようにデザインするんですね。

いえいえ、ガーデンにはとどまりませんでした。
イギリスに限らず、フランスのパリの街のデザインでも、フォーカルポイントの手法は使われています。広場からメインストリートの先を見ると、必ず象徴的な建物や、寺院や、塔がある。

ランドマークと言ったりしますが、視線を誘導し、その先に視線をとらえて離さないもの=フォーカルポイントがあることが美しい、という感覚なんだと思います。

見せ場があれば、百難隠す

このフォーカルポイントをつくる、というデザイン手法を知ってから、私は、インテリアを読み解くことがぐんとラクになりました。おしゃれだな、素敵だな~と思うインテリアには、多かれ少なかれ、フォーカルポイントがあるのです。このフォーカルポイト=見せ場の配置がピシャリとはまっていると、視線はまっすぐにそこに向かいますから、第一印象で「おしゃれ! 素敵!」となります。
さらに、もっとうれしいことに、見せ場に目がいくことで、ほかの部分はあまり目に入らない。つまり、多少ラフなところがあっても、見せ場がアラを隠してくれるんです。これは自分の家でも実践してみて検証済みなので(笑)、確かですよ。

では、空間の「見せ場」とは、具体的にはどんなものなのか?

欧米の家では、なんといってもマントルピース!暖炉です。
部屋の中央かコーナーにあって、存在感のあるデザイン、上には鏡や絵がかかっていて、入り口から部屋の中を見たときに、真っ先に目に入ります。最近では、日本でも、マントルピースをフォーカルポイントとして取り入れる方も出てきました。インテリアが決まりやすいんだと思います。

マントルピースのようなものは西欧のもので、日本の住文化にはないかというと、そうではありません。伝統的な座敷の床の間は、まさにフォーカルポイント。軸を掛けたり、生け花を飾ったり。空間の洗練度を表すための空間が、日本にもきちんとあったんですね。

床の間を飾る感覚を応用すれば、フォーカルポイントは、暖炉じゃなくても(笑)作ることができます。床の間を際立たせるのは、まわりにある「間(ま)」です。
これをうまく使います。

K邸(芦屋市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

たとえば、気に入ったデザインの家具を、空間の目立つところに置いて、まわりに間(ま)をつくってあげる。それだけで、家具の全体が目に入りやすくなり、印象づけることができます。家具は本棚やチェスト、食器棚でもいいですし、椅子一脚でもOKです。もちろん、アートを壁に飾るのでもいいし、大きめのデザイン性のある鏡でもいい。大きめの観葉植物でも、フォーカルポイントはつくれます。

ひとつポイントがあるとすれば、少し大きめのものを選ぶこと。

ちまちまと雑貨を飾るのは、ディスプレイとしては楽しいものですが、空間のフォーカルポイントにならないことが多いです。

見せ場は、効果的な場所につくるべし

どんなものでフォーカルポイントをつくるか? というお話をしてきましたが、もう一つ、大事なポイントがあります。それは、どこにフォーカルポイントをつくるか?

フォーカルポイントの説明のところで、「視線を誘導し」と書きましたが、どこに配置するかを考えるときは、この「視線」が鍵になります。

A邸(寝屋川市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

まず一番の候補になるのは、空間の入口から見て正面になる場所。玄関ドアを開けた正面にある壁などは、わかりやすいですね。廊下の突き当たりの壁も同様です。どちらもアートを飾ったり、さらにライティングしたりすると、強く印象に残りますね。

部屋の中では、入口ドアの正面の壁でもよいのですが、奥へ視線を誘導したいので、対角線の先にあるコーナーもよい位置です。視線の先がもっとも遠い場所になるので、視覚的な広がりを感じさせることもできます。

リビングやダイニングの場合は、着席したときに見える壁に「見せ場」をつくるのも効果的。座っておしゃべりしているあいだ、目にするものが素敵だと、その印象だけが強く残ります(ほかのものはあまり気にならなくなるのです。笑)。

わが家のダイニングでは、入口から見えやすい正面の壁にフェイクのレンガ壁をつくり、その脇にチェストを置いて、壁には絵を飾っています。ドアを開けたらまずここに目がいくので、ちょっと洋風のインテリア、という印象を持ってもらえます。テーブルに着いたら、今度は入口ドアの近くの壁のディスプレイが目に入ります。この壁は、ドアを開けるとドアの陰に隠れてしまう壁なのですが、狭くて家具を置くスペースがなかったので、ウォールディスプレイにしてサブのフォーカルポイントにしました。こちらはグレイッシュな水色にペイントし、ポストカードを額装したものをいくつかまとめて飾っています。

この2カ所が「見せ場」になってくれているおかげで、おしゃれな家と、遊びに来た友だちは喜んでくれています。ティッシュや新聞紙といった生活感のあるものが出ていても、実は、あまり気にされません。こういうところでも、インテリアって面白いと思います。

センスがいいな、おしゃれだな、と感じさせるのは、やはりインテリアなのだと思います。

Chat with the Curator

藤岡 信代
キュレーター 出来 忍

2016.7.5

今回の記事を読み終えたあと、我が家を見渡して「フォーカルポイント」を探してみました。
どこなんだろう~??シッカリとインテリアを考えて作った空間のつもりでいたのにピン!とくるところはありませんでした。
大きさで言うならアンティークの大きい鏡を壁に貼り付けたところが1番目立つかなって感じデス。フォーカルポイントはもしかすると見落としがちなポイントかもしれません。普段から意識して好きなポイント探しをしてみて下さい。実際に何をどうしたらいいのかわからないってときはインテリア雑誌や洋書、pinterestなども活用するのもイイんじゃないでしょうか。設計の段階でフォーカルポイントをイメージすることができたら、より大きいスペースに挑戦できそうですね。

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