Fujioka Nobuyo

インテリアエディター

インテリア雑誌『PLUS1LIVING』ハウジング雑誌『はじめての家づくり』などの編集長を経て、現在では『編集脳アカデミー』主宰として住宅や編集に関するセミナーやコンサルティングを行う。

「居心地のいい家」のつくり方

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11もう一度、家を建てるとしたら「こんな家」!

家を持ってみてわかる「理想の家」

Y邸(都島区)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

1年間の予定のこの連載、今回で11回目。いよいよ最終回が近づいてきました。
これまでの取材経験と、自分の家のリフォーム体験をもとに、住まいについていろいろと考えをまとめてきましたが、今回は、「もう一度、家を建てるとしたら?」というテーマで書いてみようと思います。
あ、私の場合、いまの住まいは中古住宅ですので、新築は未経験ですが(笑)。

最初にはっきりと言い切ってしまいましょう。
「理想の家」に必要なのは、暮らしやすい「家事動線」と、「空間ごとの見せ場」の2つです。これさえあれば、暮らしやすく、愉しい家になると思います。

まず、暮らしやすい「家事動線」のほうから、掘り下げていきますね。暮らしには、家事がつきものです。いちばん比重が高いのは、「炊事」ですね。そして、「洗濯」、「掃除」。さまざまなものを管理する「整理整頓・収納」も、家事といってもいいかもしれません。このひとつひとつがスムーズに流れると、暮らしはとてもラクで快適になります。そして何よりも、時短になるのです。

S邸(箕面市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

想像してみてください。「炊事」「洗濯」「掃除」に、「整理整頓・収納」がとてもラクな家。スムーズに進むので、時間がかからない。おかげで、いつも心にゆとりがあります。お子さんや家族の世話もゆとりを持ってできるし、自分の好きなことをする時間もとれる。そんな家だったら、空間の快適さだけでなく、時間の快適さも手に入れられるのです。

これが、私が次に欲しい「理想の家」の条件の一つです。なぜなら、今の私がその逆の生活をしているから(笑)。

10坪あまりの敷地に建つ4層の家ですから、何をするにも階段を上り下り。洗濯をするには4階へ、炊事は2階のキッチン。お掃除を一度にするとなると、4階分の階段を上がることになります。食事のあとにテレビのある3階でくつろいでいたら、キッチンの後片づけがめんどう~~。そう、どんな家事をするにも「面倒」。だから、家事がなかなか進まない…、快適な空間を維持できない…、負のスパイラルに陥ってしまうのです。
もちろん、時間があるときは、ひとつひとつをこなしていけばいいので、そんなに問題はないですよ。ただ、家事で一日が終わってしまう…。

そんな徒労感、感じたことはないですか?

いちばんこだわりたいのは「洗濯動線」

だから、もし新築するチャンスを得たら、私はまず「家事動線」から考えます。イメージが明確にあるのは、洗濯動線です。バスルームの隣に、室内干しができてベランダにも面した洗濯室をぜひ設けたい。洗面脱衣室の兼用でもいいのですが、脱衣室には下着やタオルを入れる収納は必ず設けます。
メインのウォークインクローゼットにつながっていることも大事なポイント。洗濯ものをとりこんだら、脱衣室のチェストに下着やタオルを入れ、それ以外の衣類はそのままクローゼットに運んでかけるだけ。
あぁ、なんて気持ちいいんでしょう!

キッチンは小さなパントリーをもうけ、そこには勝手口をつけたい。食品の持ち運びや、ごみの管理には、やはり独立した出入り口があると便利、と感じます。キッチンとダイニングは隣接しているか、対面でオープンでもよいのですが、リビングは独立していたほうがいいかな?と思います。

S邸(箕面市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

玄関は、少し広めのスペースで、ここにもウォークインできる収納スペースが欲しい。実は玄関に置きたいものって、意外に多いと思うのです。たとえば、ゴルフバッグやサッカーボールなどのスポーツ用品は、いちいち部屋に運ぶのは面倒です。外回りで使う掃除道具も、外に物置がない場合は、やはり玄関へ…となりがち。

間取りについては、方角や敷地の形に大きく影響されるのでその土地に合わせることになりますが、スペースの配分として、洗濯室と玄関にゆとりを持たせたい、というのは優先したいと考えています。

愉しくなければ、住まいじゃない

2つめの「空間ごとの見せ場」については、前回の内容と重なるのですが、住んでいて愉しい!と思えるのは、やはりインテリアだと思うからです。10年近く前に、あるトークセッションで、建築家さんがこう語るのを聞いたことがあります。

「住まいには、たくさんの『居場所』があることが大事だと思います」。たとえば本棚の前にちょっと腰を下ろせる椅子があるとか、考え事にふけるのにちょうどよい場所があるとか、そんなことをおっしゃっていました。家族それぞれが、「自分のお気に入りの居場所」を持っている。そんな家がいい家、とのことだったんですが、インテリアに置き換えると、「空間ごとに見せ場がある」ということだと思うのです。

インテリア雑誌の編集長になってから(2007年のことでした)、素敵と感じるインテリアについて、いつも考えてきました。取材を通して得たひとつの結論は、「空間の見せ場」。素敵なインテリアには必ず「空間の見せ場」があるのです。

I邸(八尾市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

家の中にひとつ、たとえばリビングに見せ場がある、というのではなく、できれば空間ごとに小さくても見せ場があると愉しいなぁと思います。

玄関を入ったときに、「あ、素敵!」と思える見せ場がある。リビングに入ると、パッと目に入る見せ場があって、「センスがいいな」と思う。キッチンにも素敵なコーナーがあって、「楽しそう!」と感じる。階段を上がろうと思ったら、その空間も素敵。2階の廊下にも、近づきたくなるようなちょっとしたコーナーがある。そんな感じです。

インテリアは、住み手が時間をかけて、楽しんで作っていくものですから、住み手におまかせいただいてもいいのですが、「見せ場」づくりには空間のデザインが欠かせないので、やはり家づくりのときからプランできるのがベスト。前回もお話しましたが、「どの立ち位置からどこを見るか?」を把握して見せ場をつくるのが、もっとも効果的なのです。

おおまかな間取りが決まったら、設計士さんと「ここの見せ場はどうしましょうか?」と相談する。そんな光景を想像すると、自然にニヤニヤしてしまいます。

「次に住む人のために」残せるものは?

もし、もう一度、家をつくることができたら…。
考えるだけでワクワクします。ですが、50歳を前にした私が次の住まいを持ったとしても、住めるのはせいぜい30年。住まいは、必ず誰かに受け渡すことになります。

自分の家であっても、自分だけの家ではない。そんな「価値が残る家」にするとしたら…、構造や性能は満たしているとして、次に考えるのは、やはり建材のことです。

新建材は、お掃除やお手入れのしやすさなどメリットもたくさんありますが、残念ながら長く使えて価値が出るものではありません。やっぱり30年に1回は取り替えたくなると思います。だとしたら、お手入れでリニューアルできる天然の木材と、自然素材をベースにしたい。

U邸(箕面市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

私なら床は無垢材のフローリング、壁はペイント用の紙壁紙を使うと思います。壁は、しっくいや珪藻土塗りにしてもよいのですが、模様替えのしやすさを考えると、ペイント下地にしておくのが、いまのところのベストチョイス。

色を使う住宅が増えてきたとはいえ、まだまだ少数。もっと気軽に塗り替えをする文化になるといいな~と思うのです。なぜって?楽しいから(笑)。

これはもう本当に体験してみてください、としか言いようがないのですが、壁にペイントをしてみると、白い壁が「のっぺらぼう」のように味気なく感じることがあるのですよ。そして、どんどん違う色を試したくなる(笑)。
そんなのは落ち着かない、という方もいるかもしれませんが、ペイントは比較的、素人がDIYしても上手くいく内装なので、じゃんじゃん模様替えしちゃっていいと思うんです。
ペイント用の下地壁紙を使えばいいのだし。

ペイントから始まる模様替えが普通になったら、住まい手がもっと家のメンテナンスに興味を持つんじゃないかな、という期待もあります。どんなに考えて、いい材料を使って、誰もが「いい!」という家を建てたとしても、結局、お手入れが悪かったら、やっぱり価値は失われていくから。

「家は、建てて終わり」にしない。
次の住まい手へ残せるものは、ひょっとしたら、愛情をこめて手をかけてきた歴史なのかもしれません。

三嶋さつき ピアノポスター by carbon 限定販売

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