Fujioka Nobuyo

インテリアエディター

インテリア雑誌『PLUS1LIVING』ハウジング雑誌『はじめての家づくり』などの編集長を経て、現在では『編集脳アカデミー』主宰として住宅や編集に関するセミナーやコンサルティングを行う。

「居心地のいい家」のつくり方

三嶋さつき ピアノポスター by carbon 限定販売

3「家の完成」っていつだろう?

U邸(箕面市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

欧米の人たちは、家をつくり続ける

家が完成するのは、新築が終わったとき。
あるいは、お引っ越しをして荷物を運び入れ、家具や衣類やこまごましたものを、所定の位置に配置したとき。

それを「当たり前」としてずーっと過ごしてきましたが、「あれ?そうじゃないかも?」と思うようになったのは、インテリア雑誌の取材で海外にも出かけるようになってからだったと思います。

2014年の春にロンドンで宿泊したThe Dorset square Hotel

1990年に出版社に就職し、インテリア雑誌に配属された1995年ごろはまだ雑誌の売り上げが好調で(いま振り返ると、そこをピークに下り坂になるのですが)、2000年くらいまでは、海外のインテリア実例を取材するチャンスが、結構ありました。

ロンドン、コッツウォルズ、バンクーバー、ニューヨーク。変わったところでバリ島でも住まいの取材をしました。そこで出会った人たちは、みなインテリアが大好きで、したがってDIYも内装のアレンジ替えも大好き。「次は、壁をこんな色にしてみたいと思っているのよ」「庭に新しい小屋を建てようと思って」という話がふつうに出てきて、とても楽しそう。欧米の人にとっては、家ってつくり続けるもんなんだなぁ・・・と思ったものです。

建物が完成したら「手入れする」家づくりが始まる

その後、住宅雑誌を手がけるようになり、主に建築家さんの取材をするようになって、別の意味で「家の完成はいつだろう?」と考えるようになりました。それは、一戸建てには修繕が欠かせない、ということを実感するようになったからです。

建築家さんの建てた家を取材するとき、たいていは建築家さんが同行してくださいます。そこで施主さんは、私たち雑誌の取材を受けながら、建築家さんに対しては細かい家の不具合のことを相談したり、修繕の仕方を教わったりされていたのです。

たとえば、「デッキの一部が傷んできたみたい」「無垢材の引き戸の動きが、どうもよくない」などなど。建築家さんは丁寧にアドバイスしたり、修理の手配をしたりします。よく「家づくりを頼む業者さんとは長い付き合いになるから、相性も大事」と言いますが、本当に二人三脚で家に手入れをしていく感じです。

一戸建てに限らず、マンションだって「手入れ」の感覚は必要です。たとえば、給湯器はわりと寿命が短くて、早いと10年くらいで取り換えの時期がきます。浴室の換気扇も壊れることがありますし、キッチンやユニットバスも傷みが目立つと取り換えたくなります。

それがリフォームのきっかけになったりするのですが、「完成したら、その後はノーメンテナンス!」という住まいは、一戸建てでもマンションでも、ほぼありえないのです。

だから、『予算内で賢く家を建てる178のコツ』というムックを編集したときは、修繕のことを視野に入れる、というスタンスで記事を書くように心がけました。建物が完成したら、それまでの「建てる」「つくる」ではなく、そこからは「手入れする」という家づくりが始まるわけです。

つくり続けるものなら、あえて伸びしろを残してみる

住宅ローンを払いながら、10年後の設備の取り換え、20年後の内装・外装のリニューアルの準備をする―――。

そう考えると、新築時・リノベーション時に、なにもかも完成させる必要はないのかも。『予算内で賢く家を建てる178のコツ』をつくり終えたとき、私はそう考えるようになっていました。ローンを払いながら修繕の費用も積み立てなければならないのだとしたら、新築時に完成させない部分をつくって、資金にも余力を残してもいいかもしれない、と思うのです。

自分で楽しみながら、内装の一部はインテリアとして気軽に変えていく。たとえば、壁はペイントがかなり一般的になってきて、良い塗料も開発され、比較的DIYしやすい部分です。初めはビニールクロスで安価に仕上げておいて、汚れが目立ってきたり、大胆に模様替えしたくなったときに、好きにペイントする。

ちょっと予算をかけて珪藻土(けいそうど)や漆喰(しっくい)を塗ってもらう。あるいは、20年くらいで寿命といわれる住宅設備は、新築やリフォームのときはそこそこのグレードのものを選んでおく。

O邸(尼崎市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

「予算が足りなくて、できなかった」ではなく、「インテリアの楽しみとして、残しておいた」。

そんなコストの考え方もあるんじゃないか、と思います。中古住宅をリフォームしたわが家の場合、古ぼけてはいるけれど機能的に問題ないドアをひとつ、そのまま残しました。いまはペイントしてみよう!と思っていますが、いずれはアンティーク調のドアにつけ替えるのもいいな~、と夢想しています。このドアは、愉しみのひとつなのです。

インテリアはそもそも、変えることが楽しい!

「家の完成」ということで言えば、もうひとつ、気になっていることがあります。それは、壁紙が黄ばんでいてもはがれかけていても替えないで、あるとき建物全体を取り壊して建て替えたり、リフォームして一新する、というケースも少なくないのでは?ということです。

建て替えやリフォームがいけない、というのではありません。「壁紙が黄ばんでいても替えない」というのが、むしろ気になるのです。日本の住宅で一般的な塩ビ製の壁紙は、1m500円くらいから手に入ります。

安価に供給されているのは、実は賃貸アパート用として作られたもの。入居者が変わるたびに張り替えをすることが多いため(最近はクリーニングで済ますケースもありますが)、2~3年で替えることを前提にしている商品なのです。

それを10年も20年も張り替えないでおくことに、そもそも無理があります。みすぼらしい壁を我慢するのは、なんのためでしょうか? 前回、わが家のリフォームの話をしましたが、躯体は古くても内装を一新すれば、家はすっかり新築のように変わるのです。

前回の出来さんのコメントにもありましたが、いまの暮らしを楽しむことも大事。「いまの暮らしを楽しむ」の部分は、こまめなインテリアの模様替えで実現できるのでは?と思います。壁などの内装を含め、家具やディスプレイなどは、暮らしをリフレッシュするために気軽に変える、というのが、正解なんじゃないかな。そのほうが、楽しいしね!

住宅設備の交換や細かい修繕は、否が応でもやってきます。「新築時が完成」と思っていると、不具合や経年劣化はすべてマイナスになってしまいますが、「家は完成しないもの」とはなから気楽に構えていれば、何か不具合が起こっても「よりよく変えるチャンス!」と思えるのではないかと思うのです。

Chat with the Curator

藤岡 信代
キュレーター 出来 忍

<DEKI>2015.11.16
藤岡さんのコラムは、毎回、読み終えた後にポジティブな気持ちになります。
「家づくり」といったタイトルの本を読みふける(?)と、「建築家にお願いするしかイイ家はできないんじゃないか!」とか、複雑に考えすぎて煩わしくなるときもありました。実際の作業のどうこうも大切ですが、思考のスイッチを切り替えてみると、煩わしさも楽しさに変えられる気がしますね。「家は完成しないもの」。このフレーズを掲げたら、あとは怖いモノがない気がしてきました。笑!DIYが普及して(し過ぎて?)、閉鎖的な建築業界にグィグィとエンドユーザーが入ってきて、そこに業者がどう寄り添っていくかを模索しているような時代です。デザインものの床材やクロスも、専門メーカーが直接エンドユーザーに販売する市場も珍しくなく、業者からの提案任せにするだけでは物足りなくなっていくと思います。このあたりの宝探し要素も無限大にあるので、藤岡さんのおっしゃるように、何か不具合が起こっても「よりよく変えるチャンス!」と考えるのはアリ!ですね。  

2015.11.22

<FUJIOKA>
施主が内装をDIYで仕上げる流行(?)、確かにありますね。私もDIYする前提で、「そこは残しておいて」とお願いしたところがいくつかあります(笑)。たとえば、ダイニングキッチンの柱には、ブリックタイルを張って「なんちゃってレンガ柱」にしたのですが、そこには下地の石膏ボードだけを張ってもらって、仕上げなしで引き渡してもらいました。
実際にDIYを体験してみると、職人さんのようにきれいにはいかず、ラフにしか仕上がらないので(笑)、「まぁ、これでもいいか~」と基準がゆるくなる効果はあるかもしれません。ダイニングキッチンの床は無垢フローリングの無塗装品を張ってもらいましたが、自分でオイルを塗ったら派手にムラになってしまって(笑)、それ以降は日に焼けようが、へこみができようが、水の垂れた跡がつこうが、「ま、しょうがないな。いつか直そう」と思えるようになりました。
出来さんも犬を飼っていらっしゃるので、暮らしの中でつく傷や汚れについては、ある程度、ゆるく考えているのでは? あとでなんとかしよう、というくらいじゃないと、暮らしは愉しめないですよね。住まいって、本来、そういったものかも。 「家は完成しないもの」というフレーズを、もっと浸透させましょう!!(笑)

2015.12.1

<DEKI>
ホントに「ゆるく」ってコトが、もしかしたらいちばん必要かもしれませんね。
藤岡さんがダイニングキッチンの柱にブリックタイルを張ったのと同じように、私もお店のキッチンは陶器のシンクを木台にはめ込んで、仕上げはなしにしてもらい1.5角の白いタイルを自分で張りました。仕上がったときの満足感は味わいました。
ですが、「もし自宅のキッチンだったら、衛生面のこともあるから絶対に職人さんにしてもらう!」と心に決めました。そんな自分なりの判断基準も備わっていきます。失敗しても、自分のしたことには寛大になるところがDIYの利点ですね。あと、子どもやペットにも寛大ですね。家具なんて「無垢にするんじゃなかった」って思うくらいガジガジされています。でもその傷さえ愛おしいから、もぅ溺愛ですよ。笑。
「家は完成しないもの」コレが浸透したら、インテリア全般にのびしろができていくような気がしますね。キャンペーンしましょうか!!  

2015.12.7

<FUJIOKA>
インテリア全般に伸びしろができていく。あぁ、そのイメージは、私の理想かもしれません。みんなが思い思いに、自分のペースで、インテリアをちょこちょことイジッている。そして、お互いの家の行き来をしては、お互いにほめっこする。
そんな社会になったら、どんなに楽しいでしょうね。結局、「完成させよう」という意識は、自分のためではなく、他人の目を意識してのことなのかもしれないと感じます。他人には完璧な形を見せたい、それゆえに完成させなければならない。
窮屈だなぁ…と思います。住まいって、自分を守ってくれて、癒してくれて、幸せに生きていくための活力を与えてくれるところ。だから、「自分のため」でいいんですよ。ちょっとこだわってがんばってみたり、「ここは、ま、いっか~」とゆるく手を抜いてみたり(笑)。
すべて自分のため、自分の判断基準でいいんだ、と思います。あ、でも、家を新築&リフォームするときに整えておいた方がいい部分もあるので、次回は、その「あとで変えられないもの」のお話を書きたいと思います。

三嶋さつき ピアノポスター by carbon 限定販売

「居心地のいい家」のつくり方

1

7月26日公開

「居心地のいい家」ってなんだろう?

ハウジング誌『PLUS1 LIVING』の元編集長が考える「居心地のいい家」。機能性を重視されがちな新築マンションで、軽やかに「いい按配」のリフォームを施す秘訣とは?

2

10月13日公開

「住まいへの満足」ってなんだろう?

自分の住まいを持つとき、様々な条件や制約のなかで、計画的に「満足度」を考える。藤岡さんの実体験に学ぶ、欠点も愛着に変える住まいとのクールな付き合い方。

3

11月10日公開

「家の完成」っていつだろう?

あえて完成させない家づくり。建物ができたら、そこからDIYで楽しみながら手入れしていく。そんな欧米では当たり前の考え方を参考に「家の完成」について考えます。

4

12月22日公開

「あとで変えられないもの」こそ...

新築やリフォームの際に、あとからでは変えられないポイントをしっかり抑えておくことで、優先順位が明確になり計画的な家づくりができます。

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12

8月30日公開

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連載最終回。「本当にいい家」とは何か?全12回のコラムを通じて藤岡さんが考察してきた理想の家づくりについて、フクダ・ロングライフデザインの福田社長にインタビューしました。