Sasaki Yuki

住宅ライター

広告のコピーライターを経てフリーランスのライターに。住宅・インテリアを中心に一般のお宅を訪れて取材し、雑誌などに原稿を執筆する。合間に楽器バンジョーを奏で、時折音楽イベントを企画。

連載中住宅取材の現場から

1運命のパートナーと出会うには

フリーランスのライターとして仕事を始めて、30年近くになります。仕事の大半は住宅やインテリア雑誌の取材で、一般のお宅を訪れ、カメラマンさんが撮影をしている間に住み手の方にお話をうかがい、それを原稿にまとめるというものです。このコラムを書くにあたって、いったい今まで何軒くらいのお宅を訪問したか考えてみたら、少なく見積もっても1000軒は超えてるとわかり、われながらびっくりしました。そんな取材の現場で気付いたこと、感じたことをお伝えできればと思っています。

思いのこもった、その人らしい家

仕事の中で一番多いのは、新築住宅の取材です。昔はハウスメーカー以外でおしゃれな家を建てようと思うと、輸入住宅か建築家(設計事務所)に依頼するくらいしか手段がありませんでしたが、今はデザイン住宅の会社やこだわりの家を建てる工務店など、選択肢がずいぶん増え、取材するお宅も多種多様になりました。

フクダ・ロングライフデザイン「傾斜に沿って展開する平屋の家

取材に訪れてパッと見ただけだと、「すごく好き!」と思うお家もあれば、実はそれほどでもないお家も当然あります。それでも家づくりのストーリーやお家への思いを聞くうちに、「なるほど。だからこの人はこの家なんだ」と納得し、共感し、するとどのお家もよく見えてくるんです。シュッとしたストイックな家も、モノがゴチャっとあふれた家も、ファクトリーテイストもフレンチナチュラルも、大工さんの建てた和風の家も、住む人らしさが見えてくれば、「いい家だなあ」と感じられます。

でもこれは取材されるお家が「成功例」だからですよね。

取材で何度となく聞いたコメント。「家は3度建てないと満足できないってよく言いますけど、私たちは1度目で大満足です!」。ここまで満足している人がいる反面、世の中には不満を抱えたまま、「自分たちらしくない」家で暮らしている人がたくさんいるのも事実です。その分かれ道は、「どこに家づくりを依頼するか?」パートナー選びに大きくかかっていると思います。


パートナー選びは紆余曲折あり

フクダ・ロングライフデザイン「place|プレイス

家づくりに満足している人は、パートナー選びに成功した人がほとんどです。でもスッと決まって一直線、という人はむしろ少数派。「あっちこっち訪れてもピンと来るところが見つからず、あきらめかけた頃にようやく出会えた」という話はよく聞きますし、「他社で途中まで進行したけどどうしても納得できず、それまで支払った費用を放棄して別の会社に変えた」という人もいます。「営業攻勢に辟易して、家づくり自体をいったん中断した」という人もいました。

フクダ・ロングライフデザイン「吹き抜けが広がる2階リビングの家

それでも私が取材した人は、最終的には自分に合うパートナーにめぐり会えたラッキーな人たちです。世の中にはピンと来るところが見つからないまま妥協した人や、納得できないまま進めた人、強引な営業に押し切られて意に沿わない家を建てた人も多いことでしょう。どこが違うのかというと、結局は「粘り」そして「自分の感覚を信じること」かなと。

「自分の感覚を信じる」というと、センスがよくて最初からこだわり満載の人にしかできないと思うかもしれませんが、そんなことはありません。「よくわからないけど、なんか違う」。合わないパートナーと向き合ったときの、この「しっくりこない感」。これが結構大事です。そこには実は、素材の選び方とか、デザインのディテールとか、性能の考え方とか、スタッフの人柄とか、家づくりを進めるのに重要な部分が潜んでいると思われるからです。自信をもって「なんか違う」と感じ、粘ってほしいと思います。

もう一つ、パートナー選びに失敗するのは、スペックや費用の比較に重きを置きすぎることもあるかもしれません。それも大事な点ではありますが、家づくりってもっと総合的なものではないかな。そもそもそういう比較で選んだパートナーとは、相互に信頼関係を持って家づくりを進めるのが難しいような気がします。

ぼんやりしたイメージからスタートしても

「お住まい拝見ツアー」の様子。見学会などのイベントの有無は、工務店とお施主様との良好な関係を測る基準になります。

「雑誌に載るようなお家を建てるのは、すごいこだわった特殊な人でしょ」と言われることもあります。確かに「昔から家のこと、インテリアのことが大好きで、こんな家を建てたいと夢見てました」という人はたくさんいらっしゃいます。一方で、「家づくりを考え始めたときはぼんやりしたイメージしかなかった」という人も多いのです。

ぼんやりしたイメージから始まった人は、「この人!」と思う運命のパートナーに出会ったら、そこから一緒にイメージを固めていけます。プランニングをしながらだんだん、自分の好みに気づいていったり、ものすごいこだわりの部分が出てきたり、そういうある種「成長物語」も聞いててなかなか感動的です。こういう人はある程度自分の希望を出しながら、パートナーを信頼してエイっとお任せすることもできるので、結果的によくまとまった、完成度の高い家になることも多いのです。

なんだか感覚的な話が多くなったので、最後に具体的なことを。パートナーとの相性をはかるには、住宅見学会に参加するのがおすすめです。モデルハウスと違って一般のお客様のために建てた家を見るから、そのパートナーのリアルな家づくりがわかります。ただ、はじめて参加すると空気にのまれたり、些末な部分にばかり目が行ったりしがち。できればあちこち何度か参加して見学会慣れしたい。そしてその家全体が醸し出す「佇まい」を感じ取ってほしいと思います。って、やっぱり最後も「感じ」になってしまいました。こんな連載ですが、次回からもよろしくお付き合いください。

連載中住宅取材の現場から

1

12月12日公開

運命のパートナーと出会うには

ライターとして取材した住宅は1000軒以上!佐々木さんがこれまでに出会った家づくりの成功例から紐解いた秘訣は、「粘り強さ」と「自分の感覚を信じること」。連載第1回は、失敗しないパートナーの選び方について考えます。

2

1月16日公開

「快適さ」と「心地よさ」 ― その...

快適さと心地よさ、その2つの言葉にはしっかりと使い分ける理由がありました。断熱性能がもたらす快適さと、それを心地よいと感じる気持ち。どちらも家づくりにとって大切な要素で、家と暮らしがつながっていることを裏付けているようです。

3

2月13日公開

「快適さ」と「心地よさ」 ― その...

広い家と狭い家。そんな印象を与えるのは、必ずしも面積だけが原因ではありません。小さいけどゆとりを感じさせる空間や、広いけど家族それぞれが心地よさを感じられる居場所など、家の広さによる快適さと心地よさは設計次第で大きく変わります。

4

3月13日公開

「惜しい!家」にならないために

こだわってるのはわかるけど…。なぜか「惜しい!」と思わせてしまう家に共通するのはお施主さんの「こだわりすぎ」が原因でした。家づくりを真剣に考えるからこそ、頼れるところはプロの設計士やコーディネーターにしっかり頼りたい。

5

4月12日公開

シンプルな家について考える

シンプルな家はモノが少ない家?いいえ、そうとも限りません。シンプルな住宅を実現するためには、本当に必要なものまで削ぎ落として不便な家にする必要はないのです。素材から収納まで、細部までしっかりと計算することで、住み心地とシンプルさが共存する家を建てましょう。

6

5月8日公開

「普通の家」がいいんだけど

数々の個性的な住宅を取材してきた佐々木さんが今ひそかに望むのは「普通の家」。スタイリッシュで完璧な家よりも、背伸びせずに自分らしい暮らしができる懐の深い家と一緒に年を重ねていきたい。そんな自分にとっての「普通」を追求することこそが、実は家づくりの大切な原点なのです。