Fujioka Nobuyo

インテリアエディター

インテリア雑誌『PLUS1LIVING』ハウジング雑誌『はじめての家づくり』などの編集長を経て、現在では『編集脳アカデミー』主宰として住宅や編集に関するセミナーやコンサルティングを行う。

旅で見つけた心地のいいインテリアのヒント

Harewood House

ヘアウッド・ハウス

イングランド北部のウエストヨークシャー州、自然豊かな田園風景のなかにある大邸宅。18世紀半ば、初代ヘアウッド男爵のエドウィン・ラッセルズの命で建てられ、その後代々一族が暮らした。現在でも第8代ヘアウッド伯爵のデイヴィッド・ラッセルズ一家が暮らしており、一部を見学ツアーや植物画のレッスンのために一般公開している。

4窓からの景色こそ、最高の贅沢 〜 クルーズ船とイギリスのカントリーハウス

クルーズ旅行が静かに流行していますが、体験したことはありますか?
私は2016年の4~5月に念願かなって西地中海を7泊8日でクルーズしました。その旅で得たインテリアのヒントとは…?今回は、住まいから見える“景色の価値”について。

憧れの旅のスタイル、クルージングはカジュアルに楽しめる!

ジェノヴァから乗船してカンヌ、マジョリカ島、バルセロナ、コルシカ島、ナポリ、ラスペツィア、そしてジェノヴァへ帰港。そんな航路を聞くと、どんな贅沢な旅行かと感じられたと思いますが、クルーズだけの料金ならバルコニー付きのツインタイプのお部屋で一人12~14万円程度。お食事はすべて込み(アルコールは別)なので、国内旅行よりも、ひょっとしたら安上がりかもしれません。クルーズ旅行は、いま割とカジュアルに楽しめる旅のスタイルになっています。

そんなことをイギリス旅の仲間から教えられ、「行きたい!行きたい!行きたい!」と願っていたクルーズ旅。念願がかなったのは、2016年のGW前に出発するパッケージツアーでした。クルーズ旅の先輩にお付き合いいただき、ガラ・ディナー(正装ディナー)用のおしゃれワンピースをもって乗り込みました。

私が利用したのはイタリアの会社MSCのクルーズ。超大型の客船で、デッキは16層(もっとあったかも?)もあり、プールは3カ所、船内に劇場があるのはもちろん、フレンチ、TEXMEXのレストラン、ダンスフロアのあるバーやディスコ!などエンターテインメント施設をたくさん揃えた、なんというか、賑やかな(笑)船です。

バルコニー付きのツインルーム

クルーズと聞いて思い浮かべるのは、きっとクイーン・エリザベス2世号とか飛鳥とかの高級路線だと思いますが、今回体験したクルーズ船は、むしろ、赤ちゃんからお年寄りまでファミリーで乗り込んで安全に楽しむ感じ。乗船したら荷物は広げっぱなし、スーツケースを引いて移動する手間はなく、たとえ迷子になっても限られた船内にいるわけですから(笑)、ある意味、家族旅行向けの楽ちんで安全な旅なんですね。

私たちが乗った船にもスイートルームやクラブメンバー用のワンランク上のお部屋があるのですが、私たちが予約したのは、真ん中よりちょっと上くらいのクラスのバルコニー付きツインルーム。コンパクトながら狭さを感じさせない造りで快適。でも、この空間の価値に気づくのは、船が港を離れてからだったのです。

クルーズ船の贅沢は、風景が常に変わっていくことだった!

クルージングでは、たいてい夕方に出港をするのですが、乗船日は正午からチェックインが始まって、まず船のカフェテリアでランチをとります。その間にお部屋の準備が終わって、14時か15時ごろからお部屋に入れるのですが、最初の感動は、船が出航するとともに窓の外の景色が動き始めたときにやってきました!

私たちの部屋は13デッキにあったので、そもそも見晴らしがよかったのですが、このジェノヴァの港をゆっくりと離れていく様子は、初めて見る景色でした。ドライブする車や、列車の窓から見る流れる景色ともまた違う、ゆったりと移り変わる景色です。

夜の間は真っ暗な海をいくのですが、翌朝、日が昇ってからの洋上の景色も初体験でした。基本的には海。真っ青な海。船が動いていてもあまり景色は動きません。だけど、不思議なことに見飽きないのです。バルコニーつきの部屋にして正解だった!と、心から思いました。たとえバルコニーに出なくても(私はしょっちゅう出てましたが(笑))、部屋の窓の外にはいつも、ゆったりと流れる景色がある。

こんな“インテリア”は、本当に初めてです!

寄港地の観光も楽しかったのですが、航海中は何度も、バルコニーから、オープンデッキから、月明かりの海や夜明けの海、港を出るところ、港へ向かうところの景色を楽しみました。景色以上のアートはない、ということに気づいた旅でした。

イギリスのカントリーハウスは、景色がアート

そこで思い出したのが、イギリスのカントリーサイドの家です。
私は、雑誌取材や趣味の旅行で、何度となくイギリスのカントリーサイドを訪れていますが、そこでは、はっとするほど美しい窓に出会うことがたびたびありました。そして、それが偶然ではなく、「インテリアとしての窓の景色」ということに気づいたのです。

日本にも、ピクチャーウィンドウというデザイン手法はもちろんあります。景色を窓枠で切り取って、かっこよく取り入れる窓、というイメージでしょうか?

私も、建築家さんがデザインするピクチャーウィンドウをいくつも見ていますが、地中海のクルーズで見た窓からの景色や、イギリスのカントリーサイドで見る窓の景色とは、なぜかちょっと違うのです。なんというか、日本では「景色をデザインする意図」を強く感じることが多いんですけど、ヨーロッパでは「ずっと見ていたい景色をインテリアにする」感じなんですよね。だから、景色がより自然に、インテリアに溶け込んでいるような気がします。

たとえば、アガサ・クリスティーゆかりの地を巡ったときのホテルの窓。クリスティーの推理小説「レガッタ・デーの事件」に登場するホテルのモデルと言われている、ダートマスのロイヤル・キャッスル・ホテルです。

ダートマスは、ダート川の河口付近にある水の交通の拠点なのですが、このホテルは古くからあるインナーハーバーに面していて、外観もジョージアン風で趣たっぷり。客室はすべての部屋のインテリアが異なったデザインで、私が案内された「ラベンダー・ルーム」は、その名のとおりラベンダーカラーのクラシカルモダンなインテリアでした。

部屋の中がステップフロアになっている謎の(笑)つくりだったのですが、ベッドの先にある窓の外が…。


左:ロイヤル・キャッスル・ホテル部屋の様子。窓の先には…
右:窓から見えるインナーハーバーとダート川

インナーハーバーと、その先にあるダート川。

係留されているヨットや、対岸のお屋敷も楽しく眺められます。リバーボートの乗り場も見えて、行き交う観光客が楽しそう。写真ではわかりにくいのですが、部屋に入った瞬間にベッド越しにこの窓の景色が見えるのです。そう、まるで壁にかかった絵のように。思わず歓声をあげてしまいました。

このホテルの窓は小さいですが、イギリスのカントリーハウス(マナーハウス:領主の館)では、美しい庭に面した大きな窓がいちばんいい部屋にあることも多いです。

こちらのマナーハウス(写真:右)Harewood Houseは、エリザベス2世のいとこにあたるラッセルズ伯爵のカントリーハウスです。「英国王のスピーチ」のジョージ6世の妹、メアリー王女の嫁ぎ先ですね。イングランド北部の主要都市ヨークから、少し北に上がったところにあります。

バルコニーに面した窓から見える景色が、こちらです(写真:下)。

整形式の美しいガーデンの先は、見張らせる限りすべて領地。ま、これは究極の景色とも言えますが(笑)、この景色から移り変わる季節を感じる暮らしは、どんなに豊かでしょう。イギリスの各地でカントリーサイドのマナーハウスを見て回りましたが、素晴らしい景色を主役に、住まいをしつらえた例をたくさん見ました。

窓からの景色がいちばんの贅沢。この感覚が、ヨーロッパには根づいている気がします。

インテリアにも“景色をつくる”と考えてみる

窓からの景色は風景ですが、「インテリアも景色のように考える」という話を聞いたときは、強いインスピレーションを受けました。

インテリアも、ある意味、眺めるようにして見ることがありますよね。たとえば、リビングのソファに座って目に入るコーナーとか、ダイニングテーブルからふと目を上げたときの先にある場所とか、そこに好きなものがあったら、うっとりと眺めちゃいます。それを大きく景色=シーンととらえると、住まいの中にも素敵なシーンをつくっていくというのは、とてもわかりやすいやり方だと思うのです。以前の記事では、「見せ場づくり」としてお伝えしています

「見せ場」はインテリアの中心となる場所なのですが、「インテリアの景色」は、むしろ自分の目を楽しませ、癒す場所。風景を眺めるように、ぼーっと見ていても見飽きないものがいいと思います。窓の外の景色に恵まれていなくても、インテリアにも景色=シーンをつくることはできる。建て込んだニューヨークのブルックリンで、植物をいっぱい取り込んだボタニカルインテリアが流行しているのも、そんな発想からかもしれません。

インテリアに、景色=シーンを。
ぜひ試してみてください。面白い発見があると思います。

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