Fujioka Nobuyo

インテリアエディター

インテリア雑誌『PLUS1LIVING』ハウジング雑誌『はじめての家づくり』などの編集長を経て、現在では『編集脳アカデミー』主宰として住宅や編集に関するセミナーやコンサルティングを行う。

「居心地のいい家」のつくり方

6住まいに「味わい」をもたらすものとは?

M邸(川西市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

自然素材は、なぜ古びてもいい感じなのか?

突然ですが、皆さんは「自然素材」はお好きですか?
私は好きです。基本的にナチュラル&シンプル志向というのもありますが、アラフィフになってみると、自分のくたびれ具合が身に染みて(笑)、「いつまでもピカピカ」「新しいのがいちばんいい!」というのに、ついていけなくなってきます。その点、自然素材はどんどん変わっていきます。日に焼けて、乾燥してカサカサにもなり、ちょっとくすんできたりします(あ、お肌の話じゃないですよ!!!)

住まいに使う自然素材の代表格は、なんといっても木材です。
それから、紙、布、石、土。陶製タイルやガラスも自然素材です。昔はすべて自然にあるもので家を建てていたわけですから、本来はすべての住宅建材が自然素材なんですよね。

ところが、ご存知のとおり、いまの住宅建材はほとんどが「新建材」と呼ばれる合成や加工を施したものに変わっています。もちろん、材料は天然由来なわけですが、石油からつくられる合成樹脂でできているもの、加工されているものが本当に多いです。
たとえば、フローリングは表面に樹脂加工されているもののほうが一般的です。壁紙もビニール壁紙が主流で、ほんとうの「紙」を使ったものはごくわずか。カーテンに使う布だって合成繊維が当たり前だし、石は天然石がまだまだ使われていますが、わざわざ「天然石」と断るくらいですから、合成樹脂製もあるわけです。

M邸(川西市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

「新建材」が悪者、というわけではありません。天然由来の素材の欠点を補うように開発されてきたので、いいこともたくさんあります。たとえば、品質が一定に保てますし、規格が揃っているので施工する人の手間も減らせます。
遮音性能だったり、防燃加工だったり、プラスの機能を追加されたものもあります。だから、現在、建てられている住宅のほとんどが新建材でできているのは、時代の流れ、人々のニーズの結果だと思います。

でもね、新建材で建てた家が30年、40年経ってみると、なんだかみすぼらしい、味わいがない……ということが起きてきている。
一つには、便利に使われてきた合成樹脂の風合いにあると、私は考えています。合成樹脂は、きれいにコーティングしてくれたり、お掃除がしやすかったり、いい点もあるのですが、「経年劣化」するのです。たとえばフローリングや家具の表面のコーティングは、白く濁ってきたり、パキッと割れることがあります。ビニール壁紙は、油汚れに反応して、汚れがとれにくくなってきます。10年くらいはきれいな状態が続いて、その後、劣化が目立ってくるので、なんだかみすぼらしくなることがあるのです。
そして、その変化が、十中八九、味わいにならないと感じます。

一緒に歳を重ねるものがあると、ほっとする

そんなこんなを、インテリア誌・ハウジング誌の取材で体感してきました。
私がインテリア誌に配属になった1990年代後半は、カントリースタイルのブームで、住まいにも自然素材を使うことが大流行しました。代表が、パインの無垢材のフローリングです。仕上げはもちろん、オイルフィニッシュかステイン仕上げです。
無垢材のフローリングと言えば、こんな笑い話もありました。当時のインテリア誌では、無垢の字が読めないかも?ということで、「ムクのフローリング」と表記していたのですが、ムクという樹木の種類があると思われていた読者がいらっしゃいました。
ま、それくらい、本質はよく理解されずに流行が先行していた部分もあります。

ちなみに、無垢というのは、「けがれがなく純真なこと」を意味する言葉ですが、そこから単一でまじりけのない素材のことを無垢材と呼んでいます。

M邸(川西市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

話を元に戻しましょう(笑)。
大流行したパインの無垢材のフローリング、取材先で体感してみると、確かに足ざわりがいいし、ほのかにあたたかいし、見た目の風合い(特にボリューム感)がよくて、「これは人気になるはずだ」と思いました。加えて、木材は、自然に湿度を吸ったり吐いたりするので、厚みがあればあるほど、室内環境の調節にも一役買ってくれます(これは漆喰や珪藻土壁も同様です)。
インテリアとしての見た目から起こったブームですが、やはり本来の素材感を求めるニーズもあったんでしょう。輸入材を中心に、いろいろな無垢のフローリング材が使われるようになり、国産材も増え、今では選択肢として定着したのではないかと思います。

そして、私がなによりその“実力”を実感させられたのは、インテリア誌の取材で、経年変化した無垢フローリングを見たときでした。

無垢材は、時を重ねるにつれ、味わいが出てくる。
と、取材では聞き、雑誌にもそう書いてきたのですが、いったいどんなふうに変わるのか?私をふくめ編集部スタッフには「ちゃんと見てみないと……」という想いはあったのです(笑)。
新築時に取材させていただいたお宅に、10年後に再取材するチャンスがあり、その密かな検証は行われました。結果、見事に日に焼けて赤茶色に変色したパインの無垢フローリングは、時の流れとともに、さらにしっとりとした重みを加えていたのです。人が年齢を重ねることで、落ち着きと風格を備えていくかのように。

M邸(川西市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

時を重ねるにつれ、味わいが出てくる。

その意味を実感した私は、5年前の住まいのリフォームの際にも、パインの無垢フローリングを使うことにしました。あまり厚みのないタイプなので、ボリューム感にはやや欠けるのですが、どんどん変化しています。

そして、さらに発見したこと。
自然素材は、ほんとうに“自然に”歳を重ねていくのです。白っぽかった木肌は日に焼けて赤くなり、ものを落とすと小さなへこみができ、水滴の染みができる(これはすぐに拭き取らなかったせいですが。笑)。
最初は、へこみや染みも気にしてはいたのですが、だんだんと「これが自然なことだから」と受け入れられるようになります。それが、なんだかとても安心できるのです。すべてのものは、古びていくのが当たり前なのだ、と。

これは、冒頭に書いたとおり、私の年齢のせいもあるかもしれません。
これから50代になっていくのに、ピカピカの住まいはちょっとしんどい。一緒に歳を重ねていける住まいが、いまは心地よく感じます。

ポイントは、「衛生観念」(汚れの感度は人によって違う)

さて、私自身は自然素材のよさを味わっている最中ですが、これから家を建てる人へ少しだけアドバイスします。

住宅建材に自然素材を選ぶとしたら、ご自身や家族の「衛生観念」を基準に考えるのがおすすめです。というのは、ツルツル・ピカピカの状態を維持したいのなら、やはり新建材のほうが向くのも事実だからです。
ちなみに、お掃除が苦手な私は、水回りはすべて新建材のユニット仕様のものを選びました。抗菌や汚れの自動洗浄など、いまは「お掃除がラク」になる技術が進んでいます。カビにくいバスユニット、汚れにくい便器などは、やはり最新技術のモノ(当然、さまざまな合成素材を使っている)に軍配が上がります。

汚れに対する感覚も人それぞれなので、その点も注意が必要です。
たとえば、私も大好きな無垢フローリングは、より自然なオイルやワックス仕上げにすると、やはり汚れを吸うと感じます。汚れをはじくのは、ウレタン加工にまさるものはありません。無垢材にウレタン加工をしてしまったら、自然素材のよさも失われますけれどね。
吸湿性で話題になった珪藻土や、ソイルタイルなども、湿気とともに汚れも吸います。
「ソイルタイルは油汚れも吸うから、レンジまわりに使っても大丈夫」と取材で聞き、「油汚れを吸ったタイルはどうなるの?」と怖気をふるっていた編集者もいます。

それで平気と思えるかどうかは、個人の衛生観念によるのです。
ちなみに私は、非常に衛生観念がゆるいので、汚れとともに生きていくのはわりと平気です(笑)。そもそも人間の身体だって雑菌まみれだし、と思っています。

ものすごーく大きくとらえると、自然素材のよさは、そもそも「自然であること」に由来するわけで、自然とは、汚れもあるし、変化もするし(良くも悪くも)、いずれは朽ちてゆくもの。
その流れに身を任せられると、心安らげるのだろうと思います。

Chat with the Curator

藤岡 信代
キュレーター 出来 忍

こんなにわかりやすく切り込んだ内容にビックリしました。施工業者や施主も経験値は積むことはできるのですが、それを文章でたくさんの人にわかりやすく伝える事は、なかなかできません。藤岡さん!すばらしい~!!そして今回のポイントは経年変化する素材を取り入れることです。取り入れるにはそれなりの覚悟も要します。以前はクレームの対象になりやすいので15年程前までは、今よりもっともっと施工業者も取扱いには慎重だったと思います。今はとてもイイ時代です!!!建材の自由化とでもいいましょうか、、、笑。
使う材料そのモノの価格ではなく耐久性やメンテナンスのコトも考えて出てくる「みえないコスト」も重要なポイントになるんではないでしょうか?

2016.3.7

「見えないコスト」は、確かにありますね~。無垢の自然素材は、メンテナンスも必要ですが、年を経ただけの重みや味わいが加わりますから、「汚くなったから取り替えたい!!!」となることはないと思います。とはいえ、新建材は新建材のよいところもあるので、やはり主体的に選んでほしいな、と思います。たとえば、わが家の壁紙はメーター500円のビニール壁紙ですが(笑)、排気ガスの汚れなどを吸って10年くらいで黒ずむことはわかっているので、上からペイントしたり、壁紙を部分的に張ったりして楽しんでから取り替えるつもりでいます。リフォームの際に全部をしっくい壁にしたら、それこそ大変な額(笑)の工賃がかかっていたと思いますが、その分を節約して「まめに張り替える」という選択をしたわけです。コストは安上がりだけど味わいは出ない新建材を「つなぎ」として使って、お金を貯めてから自然素材に変えるという選択肢もありですよね。私は、その選択肢も考えています。

2016.3.14

なるほどデス!今回のお話は、これまでに培ったそれぞれの住まいの価値観を存分に発揮するためのヒントがたくさんありますね。仕上がった空間にイラストを飾ったり、雑貨を並べたりとインテリアの楽しみ方も人それぞれだから、少しは仕上げをイメージしておくと建材選びに悩んだ際に最後の決め手になったりすることもありそうですね。
10年後の再取材で新築の時と比べる記事は、コレから雑誌でドンドン特集してもらいたいお題です。経年変化の素材の需要がこんなに増えたのだからコレから世代にとっては参考になるケースはたくさんありそうですね。

2016.3.21

インテリアのカントリーブームから始まった感のある自然素材の人気ですが、もうそろそろ30年ですから、本当の「経年変化」を目にできるようになるころですね。私がまだ新築の取材をしていたころは、経年変化を実際に目で確かめないまま、経年変化を語っていた感があります(笑)。雑誌が特集するのも面白いと思いますが、実際に素材を扱い、アフターメンテナンスをするのは、施工した建築業者の方々です。現場に近い方たちこそが、しっかりと研究をして、経年変化の実例を、エンドユーザー向けに発信していくことが、これからは求められるのではないでしょうか? 工務店さんが発信する「Before After」こそ、私は見てみたいです!   ※次回の更新は3月24日(木)になります。お楽しみに!

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