Fujioka Nobuyo

インテリアエディター

インテリア雑誌『PLUS1LIVING』ハウジング雑誌『はじめての家づくり』などの編集長を経て、現在では『編集脳アカデミー』主宰として住宅や編集に関するセミナーやコンサルティングを行う。

「居心地のいい家」のつくり方

4「あとで変えられないもの」こそ、大事にしよう

光が心地よい住まいは、気分がいい

「家は完成しないもの」と考えておいたほうが、新築時のプレッシャーも少なくなるし(資金面での心配も。笑)、あとでインテリアを変えていく楽しみもある。これまでの3回のコラムで、そんなことを書いてきました。

今回は逆に、新築・リフォームのときこそ、しっかりと計画しておいたほうがいいことを考えてみたいと思います。

暮らしを快適にするという意味で、第一にあげたいのは、「採光」と「通風」です。 家づくりの雑誌の編集をしていたとき、「健康住宅」を専門にしていた建築家さんを取材したことがあるのですが、その方が重視していたのも「採光」と「通風」でした。 自然光が入り、風が通る家は、健康に過ごせる。なにより気分がいいから、精神的な満足にもつながると思います。

建築家さんが設計した家を取材していて、なにより感心することは、光の採り入れ方です。 一般的な建売住宅やマンションでは、残念ながら窓をデザインすること、もっと言えば自然光をデザインした物件は多くないと感じます。窓の向き、大きさ、位置……、ひとつひとつ吟味すれば、実は、さまざまな光をデザインすることができるんですが、あまり知られていないですよね。

たとえば、北向きの窓の光はやわらかく、一日じゅう、あまり変化することがありません。温度の出入り口にもなるので、あまり大きくすることはできませんが(冬に寒いので)、やさしい明るさを得るには北向きの光は面白いです。 南向きの窓は直射日光が差し込むので、開口部の高さによって光と熱の入り方が変わります。壁の高い位置にとると、夏の直射日光はあまり入らず、冬の日差しは大きく採りこめます。


K邸(芦屋市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

お隣との関係で、大きく開口をとることができない場合は、床面近くに設置する地窓や、天井近くの高窓を設ける方法もあります。どちらも、北向きの窓同様にやわらかい光になりますが、あるとないとでは大違いです。

壁面に収納棚を設けたいキッチンや、鏡を設置することの多い洗面台も、上部に高窓が開いていると、やわらかな光と開放感を感じることができます。もちろん、部屋が明るくなるので光熱費の節約にもつながります。

新築戸建ての場合は、敷地の条件を考慮してさまざまな工夫ができるので、ぜひ採光と窓のデザインにこだわってみることをおすすめしたいです。まわりが建てこんでいる敷地でも、光は採りこめます。設計士さんの知恵も、ぜひ引き出してみてください。

窓の位置やデザインを変えにくい中古物件のリフォームの場合でも、工夫できるところはあると思います。

わが家の場合は、鉄骨コンクリート造なので窓はほとんど取り換えをしませんでした(予算の関係もあり)。が、自然光がほとんど入らなかった玄関と階段は、小さな高窓をもうけ、室内ドアをガラススリット入りにすることで、ほのかに明るい空間へ変えました。

このサイトのエディターである出来さんのお住まいも、室内の間仕切り壁に窓を設け、廊下からリビングに通じるドアをガラス窓つきにすることで、玄関に光を採り入れています。玄関を開けてドア越しに見えるリビングの風景も、それはそれは素敵です。

風が通る家は、自然と一体化する家

A邸(寝屋川市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

もうひとつの「通風」は、住まいのまわりの環境を熟知していることが鍵になります。環境に合わせて窓を計画すれば、自然に風が通る家になるからです。

どんな土地も、風が通る方向が季節によってだいたい決まっています。
どちらに海があって、どこに山があるか、といった大きな環境と、そのまわりの小さな環境。どちらも影響するのですが、経験のある建築家さんなら大きな環境を調べてから家の設計をしてくれるはずです。

わが家の場合は、南に東京湾がある平野に位置するので、基本的に、昼間は南から北に風が吹き、夜は逆に北から南に風が吹きます。
なので、南北に窓があれば、窓を開けるだけで自然に風が吹き抜けていきます。南側の窓は小さいのですが、少し開けるだけでも家じゅうの空気が動くのがわかります。

家のまわりにも、風がどう吹くかという“小さな気候環境”があります。これは、東日本大震災後の夏、節電の取材のために大手建材メーカーで取材して知ったことですが、窓の高さや形状を工夫することで、この小さな気候環境も利用することができます。たとえば、縦滑り出し窓は、建物の壁に沿って吹く風を取り込むことができる、といったことです。

風が通ることのメリットは、夏に涼しくて気持ちいいだけではありません。
こもりがちな湿気をとばしてくれるし、空気の淀みも払ってくれます。
現在の法律では、すべての住宅に「換気設備」が義務づけられていることからもわかるように、通風は住む人の健康にも、住宅の健康にもとても重要なんですね。

高密度・高断熱の構造に、熱交換機能つきの24時間換気設備。といった管理された住まいも快適だと思いますが、私はなんとなくラミネート加工された家を想像してしまいます。
窓を開けるだけで自然に風が通っていく。
そのほうが、住まいも息をしているような気がします。

水回りの位置と床も、あとで変えない前提で考える

A邸(寝屋川市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

「採光」と「通風」をしっかりプランすることは、ランニングコストの面でもメリットがあるのですが、のちのちのリフォームコストの点から考えると、水回りの位置と床も「変えない」前提でいたほうがメリットが大きいです。

水回りの位置は、リフォームの際に変えることは可能です。
けれども、位置を変えるためには配管を変える必要があり、ただ水道管を延ばすだけでなく、床面の高さを変えなければならないケースも出てきます。なぜなら、水を流すためには必ず勾配が必要であり、勾配をつけるためには床下の空間が必要だからです。

ちょっと考えただけでも面倒、ですよね。
たぶん、リフォームの設計を担当する設計士さんも、そう考えると思います。だから、水回りの配置換えは歓迎されないはずです。

私の場合もそうでしたが、中古住宅をリフォームする際には、水回りを含めた“間取りの大改造”を夢想してみたりすると思います。
私は、水回りの移動をちょっとほのめかしたりもしたのですが、そのときの設計士さんのさっと曇った顔を見て、すぐにあきらめました(笑)。
もともとの水回りの位置に、私の暮らしを合わせるほうが簡単だったからです。水回りの位置はそのままに、まわりの部屋の配置を変えるだけでも改善できることはたくさんあると思います。

それからもうひとつ、あとで変えにくいものに、「床面」があります。

これも構造上の問題で、特にフローリングの場合は、張り終わった後にさまざまな造作を施すことがあるので、張り替えがおおごとになってしまいます。

床面つながりといえば、床暖房もそうですね。
床暖房を設置したいなら、ほかの予算を削ってでも先にやっておいたほうがいい。もちろん、断線などの故障の際のメンテナンス方法も考慮しておく必要があります。

こうやってまとめてみると、「採光」と「通風」に関わる窓と、水回りの配管、床は、住まいの構造に近い部分なんですね。
リフォームの際に、基礎や柱といった構造をいじろう、という人は少ないと思いますから、窓と配管と床も「構造」と考えておくと、わかりやすいかもしれません。

Chat with the Curator

藤岡 信代
キュレーター 出来 忍

2016.1.4

新築やリフォームのご予定のある方は今回の藤岡さんの記事から
自分にとっての必要事項を抜き取ってまとめるのにご活用して頂きたいです。
設計士さんに伝える要点が予め纏まっていれば時間短縮もできて仕上がりのイメージの相違も
軽減されるのではないかと思いました。
自然の摂理に従うことで省エネが確実にできるのだから、その事を施主が知っていなければ
依頼することすらできないのです。コレについては、無料のセミナー会などを活用するのも
ヒトツの方法かと思います(施工会社に頼れる場合はお任せで充分だと思います)。
自邸のリフォームを藤岡さんに取材していただいたときに、じっくり考えてイメージして
作り上げたポイントを、藤岡さんは一目で全部正解!されました。ホントに驚きました。
1番のポイントは「7割の仕上がり」でした。完成しすぎないように心掛けたところまで
(構造の部分は7割にすべて入ってます)。

2016.1.13

出来さんのマンションのリフォームを取材したとき、玄関ドアを開けたときから、光と風についての明確な意思が感じられました。
さすが、何件もリフォームを手がけ、設計士さんや職人さんとたくさんお仕事をしてきた出来さん!と、とても感動したことを覚えています。 「自然の恵みをいかに住まいに活かすか」という視点が、これまで建築家さんが設計された実例をたくさん取材してきて、いちばん知識として身についたことだったように思います。 間取りがどうとか、収納がこうだとか、目に見えやすい部分はとかくこだわりがちですが、間取りも収納も、実はライフスタイルによって使い勝手が異なる=ライフスタイルに合わせなければならない部分。 ベースの部分で、「住まいの心地よさ」を支えているのは、採光と通風です。 細かいアイディアの部分はプロの頭脳にお任せして、「光の感じはこうしたい」「風はどの程度、通したい」というイメージを持っておくとよいのではないでしょうか。

2016.1.18

そうなんですよね~。DIYが「楽しい」「安くつく」このキーワードが流行り過ぎてしまい、なんでも自分達で!という傾向になっています。ですが、プロから出て来る
アイディアはやはりスゴイことだらけってコトは藤岡さんが雑誌の取材ではいつも感じておられている事ではありませんか?
自然エネルギーをうまく利用するワザは、とても大切なことなのでコレも後から変えられないので必須事項ですね!藤岡さんの「住まいの心地よさ」を支えているのは、採光と通風です。っとハッキリ言い切って頂いたところに大きなヒントが込められているように思いました。やはり自分の好みを知るには、普段から意識してどんな感じの状態が暮らしやすいのか、自分の価値観をちゃんと探ってプロに伝えることができたら、そこから出てくるアドバイスは大きな財産になります。ですよね?笑。  

2016.1.25

プロのアドバイスは、いちばんの財産だと思いますよ。そして、それをもらうためにも、まず施主側が住みたい家のイメージや、自分たちのライフスタイルを、言葉で伝えることが必要だと思います。ま、そうはいっても、ほとんどの人は「漠然と感じている」ことが多くて、言葉にするのは難しいかもしれません。だからこそ、設計のプロとコミュニケーションすることが大事なんですよね。会話の中から、言葉が見つかっていく、ということもあると思います。 あとは、ありがちですけれど、写真や画像をたくさん集めておいて、「なぜ、これを好きと感じるのか?」、説明できるようにしておくこと。写真を集めただけで満足しないで、「なぜ?」と一度、自分に問いかける作業をするとよいと思います。  

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