Fujioka Nobuyo

インテリアエディター

インテリア雑誌『PLUS1LIVING』ハウジング雑誌『はじめての家づくり』などの編集長を経て、現在では『編集脳アカデミー』主宰として住宅や編集に関するセミナーやコンサルティングを行う。

「居心地のいい家」のつくり方

2「住まいへの満足」ってなんだろう?

施工例:M邸(川西市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

前回のコラムに、エディター出来さんからコメントをいただいて家づくりが成功するかどうかは「住まいへの満足」との関わりが大きい、と感じたので、今回は「住まいへの満足とは?」について書いてみようと思います。

考えてみたら「自分で住まいを選ぶ」という行為は、ある程度、大人にならないとできない。せいぜい早くて、親元を離れてひとり暮らしの部屋を借りるときでしょうか?
私は大学に入るときに親元を離れましたが、大学の寮で2年間、その後は親の方が千葉に引っ越してきたので親元に戻り、自分で探して部屋を借りたのは、就職する前の春でした。

それからは、友人との二人暮らしを2回、結婚して夫婦で借りた部屋・・・、基本的には賃貸住まいで、住んだ物件は5つです。どれも、そのときに「ベスト!」と思って借りた部屋ですが、どこか「仮住まい」の想いがなかったわけではないですね。「インテリア(内装)は自由にできないし・・・」という不満は、いつもあったように思います。

自分で家を持ってみて思うこと

施工例:I邸(八尾市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

そんなこんなで40歳を過ぎ、「今、家を買うより、退職するときにまとまったお金をつくって家を持とうかな・・・」と考え始めたとき、ひょんなことから中古住宅を買うことになりました。そのときには「定年を待たず、ちょっと早めの50歳で会社は辞めよう」と考えていたので、ローンを組めるうちに・・・という想いも頭の隅にあったかもしれません。少し前から貯金をがんばっていたおかげで、なんとか頭金とリフォーム代は出せそう・・・という資金もありました。

それにしても予算には限りがあります。
不動産屋さんでたくさん物件の図面を見せてもらいましたが、条件に合うものがあまりにも少ない。絶望しかかっていたとき、出会ったのが今住んでいる物件です。

「この予算では、これくらいの家しか買えない」
それが十分に頭に入っていたので、11坪の極小敷地で、しかも変形の三角形。築40年超の鉄骨造。基本は北向き。という物件でも、「見てみよう!」と思いました。

まだ前のオーナーさんが住んでいらっしゃる状態で内見をさせていただき、かなり生活感の漂う(失礼!)建物内に入ったとき、意外にも私が感じたことは「ここ、リフォームしたら変わる!」というワクワクした気持ちでした。

これまでは、とにかく明るさにこだわった物件探しをしていたので、北向きがとても心配でしたが、窓が大きく多いためか、思っていた以上に明るく、いちばんの懸念材料だった三角形の敷地は、感心するほど内部の空間をうまく使っていました。

「これ、良くなるかも!やりがいがあるじゃない?」
いま振り返ってみたら、ただの好奇心ですね(笑)。でも、その気持ちが、いろいろな懸念材料を乗り越えてしまったのは、事実です。

住まいを持つときに、無条件で選べるという人は、おそらくほんの一握りだと思います。予算があり、場所の制約があり、家族の思惑があり、将来の計算もあり・・・、さまざまな条件のなかで住まいを選ばなくてはならない。自分の経験を振り返ってみても、そのなかで「何をもって満足とするか?」は、やはり自分で決めていかなくてはならないのだと思います。

欠点も愛着になる

わが家のダイニング。変形なのがわかるでしょうか? © MASAO SEKIGAWA

さて、家の購入からリフォーム完了、お引っ越しまでのあれこれは、『PLUS1LIVNG』で記事にしたこともあり割愛しますが、実際に住み始めて3年のいま、感じていることを書いてみたいと思います。

間取り変更と設備の取り換え、内装を全部行うフルリフォームだったので(1200万円くらいかかりました)、築40年超の古さはまったく気になりません。外装もきれいに塗り替えたので(これに結構、費用がかかりました)、1階の貸店舗にはすぐに店子がつきました(言い忘れましたが、店舗併用住宅です)。

それまで取材で培ってきた知識をつかって(笑)、内装はシンプルに、安価でありながら部分にこだわって自分好みに仕上げました。たとえば、壁と天井は白のビニールクロス1種で統一してコストダウン。そのかわり、ダイニングルームは無垢のパインのフローリング、階段と居室はウールのカーペット敷きと床材にはコストをかけました。

壁は自分で塗り替えたりもできますが、床は工事がたいへんで、なおかつ素足でふれる場所。面積が広くて、インテリアを決める要素でもあるので、こだわりたかったのです。無垢のフローリングはすぐに日に焼け、傷もつきやすいし、ウール・カーペットはとにかく髪の毛のお掃除がたいへんです。

ですけれども、どうしてもやってみたことだったので、まったく気にならないのです(笑)。安定した光をとりこんでくれる北向きの窓は、実は冬の寒さもたっぷり取り込みます。本来ならは、断熱効果の高い二重窓に全部を変えたかったのですが、これはコストがかかりすぎるので断念しました。

冬の寒さにはいまだに慣れません。
ですが、夏の涼しさは、住んでみてわかったうれしいことでした。2つしかない南向きの窓と、北向きの窓は、私の住む地域では朝夕に涼しい風を通してくれる、非常によく働く窓だったのです。

いいところもあれば、悪いところもある。
私たち人間とまったく同じ。凸凹がありすぎて、個性的すぎる住まいと付き合っていると、「こんな家なんだけど、好きなんだよな~」という気持ちがわいてきます。

満足には、クールな判断も必要

三角形の敷地の、いちばん狭い部分に階段があります。
壁が少ないため本棚は階段の踊り場に設置。

いまの住まいに満足している私ですが、実は、これを「終の棲家」とは考えていません。敷地11坪の狭小地ゆえ、4階建ての2~4階部分に住んでいて、階段を上り下りできなくなれば、トイレに行くこともお風呂に入ることも、いやいや外出すらできない。超バリアフル住宅なので、とてもとても死ぬまで住むことなんて考えられないのです。

もちろん、そのことは購入時に承知済み。
住んでも15年。と割り切っての購入でした。

だから、いろいろなことを想定しています。売却はできるか、別の資産運用法はあるか、ローンは完済できるか・・・。そういう意味では、私と住まいとの関係はとてもクールなのです。欠点も含めて愛着を感じているけれど、「一生モノだからね!」といった思い入れはない。ひょっとしたら、だからリフォームの際に過度に入れあげる(?)こともなかったのかもしれません。いずれは別れる運命にあるのだから、「こうでなければ!(満足できない)」ということもないのです。

考えてみれば、住まいに「こうでなければ!(満足できない)」という条件って、どれほどあるでしょうか?私の場合は、地震から守ってくれるだけの強度があって、15年くらいの使用に耐えられて(この2つは建築士に診断してもらっています)、将来、売却できる可能性がある、という3つくらいかな。

内装や設備はお金さえあればいくらでも変えられるってことは知っていますし、暮らしの快適度はインテリアでなんとでもなる、と思っていますからね。前回もお話しましたが、住まいには、建物というハード面と、インテリアというソフト面があります。この2つを切り分けて考えられるだけで、「住まいの満足」って変わってくるのではないか、と思うのです。

Chat with the Curator

藤岡 信代
キュレーター 出来 忍

2015.10.19

<DEKI> 「住んでも15年」という言葉の潔さに、とてもグッときました。15年先のことも見込んで今の住まいがあることが羨ましく思います。 どんなに素敵な家を建てても、その後の生活になんらかの変化が訪れることをシミュレーションすることが大切なのですね。 「住まい」に求めるモノが多すぎると、それに伴って支払いもかさんでいくのは当たり前のこと! まずは、3つくらいの希望を考えるところから始めてみるのが良さそうですね。 建物というハード面と、インテリアというソフト面、この2つを切り分けて考えてみる。「家づくり」にはハードルがいくらでもある分、工夫する部分もたくさんあるということですね! 今回の藤岡さんのお話は、「家づくり」において柔軟力を持つ大切さがわかりました。 

2015.10.26

<FUJIOKA>
「住んでも15年」という感覚を持てたのは、住宅雑誌で取材を続けてきたおかげだと思います。ふつうは、30年以上のローンを組むと思うので、自然に「30年は住まなければ」と考えると思うのです。 ところが、実際に取材をしてみると、せっかく新築しても5年で転勤になって賃貸に出したり、手離すことになったり…というケースは、意外に多いんですよね。自分が育った実家も15年ほどで賃貸に出していて、70歳を越える両親はその家には住んでいないんです。 未来にどんなことが起こるか、は、どんなにシミュレーションしても実際には予測できないもの。私たちにできることは、「こうでなければ」という思い込みを捨てることかな、と思います。 これは、次回に少し書こうと思っていることなんですが、「住まいに求めること」が、家の機能以上のものになってしまうと、際限がなくなるし、難しいことになるのかな~と思います。建物というハード面に限って言えば、いま考えておくべきことは、「地震に耐えられること」「水害に合いにくいこと」「メンテナンスしやすく長持ちすること」という機能と、「室内を快適な環境に保てること」。わが家の場合、最後の「室内環境」には難があるわけですが(バリアフルで冬寒いので。笑)、それもほかの方法で解決できることですもんね。家づくりでは考えることが多いので、ハードルも多いように感じますが、まずは「問題を分ける」「それぞれに対策する」という方法で、ずいぶん変わるのではないかと思います。

<DEKI>
今回は「住まい」の決断に役に立ちそうなヒントがいっぱい詰まっている気がしました。「問題を分ける」「それぞれに対策する」という頭をキッチリ整理整頓することが、ホントに1番最初の課題でもありますよね。藤岡さんのお話がとてもわかりやすくて、もっと早くに知っておきたいことばかりでした。藤岡さんのご両親が何かをきっかけに賃貸にして移転された柔軟力は素晴らしいですね。 私の両親は、新興住宅に「夢のマイホーム」という時代にそのまま絵に描いたように家を買いました。掘り込みのガレージの上に立つ家の玄関は、15段の階段を上らないと扉まで辿り着けません。見晴らしが良くて景色は素晴らしいです(特に夕暮れが)。けれど老夫婦にとってこれから先は厳しいことだらけです(車がないとコンビニまでも行けません)。その不便さと背中合わせの慣れ親しんだ環境から離れたくないという気持ちが痛いほどわかります。
私自身のコトで言えば、早い段階でローンを終わらせたい思いで繰り上げ返済をスローガンに掲げています。笑!年老いたときに少しでも選択肢を増やすためです。
住居選びは、市内から少し離れてリノベーションする予算を計算して選んだ新築マンションでした。一人暮らしでの安全性と利便性で選びましたが、リノベーションすることで、欠点である無機質な部分を取っ払って、心地イイ空間に仕上げることができました。現時点ではこれから先のことはまったくわかりません。ですが、今は家にいる時間はかなり充実した暮らしを楽しめています。

<FUJIOKA>
出来さんのご実家のお話が出ましたが、住まいを選んだ時点ではベスト!と思っていたことが、はたして30年後もそのとおりか、というのは、ほんとうに難しいことですよね。私が住宅雑誌の編集長をしていたころ、「子育て住宅」というのが流行しましたが、記者発表に行くたびに疑問が深まったものです。子育てという言葉からイメージする「子ども」はせいぜい小学生くらいまで。成人するまで子どもということにしても(笑)、15年くらいの期間しかないんですよ。 出来さんが最後にコメントしてくださった、「今は家にいる時間はかなり充実した暮らしを楽しめています」というのが、大事なことなんじゃないかな、と思います。住まいとは、まさに「充実した暮らしを行う場」で、充実した暮らしが続けられるように、そのときどき手を入れていくものなんじゃないかな。 そう考えると、住まいが完成するということはないわけです。いつも進行形だから(笑)。修繕したり、リフォームしたり、住み替えたりすることも考えると、ローンの返済以外に、住まいのゆとり資金を用意できるくらいの計画が必要かもしれないですね。私も、本来ならあと1年で屋上の防水処理をすべきなのですが、資金面での準備がおいつかず(失笑)。マンションの修繕積立金ってよくできた制度だな、と思います。一戸建てでも、本来は修繕積立しておいたほうがいいから。  

「居心地のいい家」のつくり方

1

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