coeur ya.

彫金作家

シンプルだけど存在感のあるデザインが人気の彫金アクセサリー作家。
1998年から始め、5年の活動休止を終え2012年から活動を再開しました。

人は聞きたいと望んでいないかもしれない

4原動力としての建築

左上:大阪ニット会館のインターホンと格子 / 左下:どこかの柵
右:アートニクスビルの飲食店millibarのオーナーさんにビルが好きだと話したら案内して下さったビルの裏側

今回はちょっと力を抜いて、自分の好きな建物の話を。それこそ誰も知りたいと思っていないことですが…。

建築物が好きです。建物自体も好きなのですが、窓の格子だったり、通気口だったり、階段の手すり、あとなんと説明していいのか分からないけど多分中の鉄骨とかの問題で出っ張ったり引っ込んだりしている壁も。そして見ていると「何か作らないと!」という少し焦った気持ちになる。「人の真似にならないように」「アクセサリーを見ないように」生活していた私にとってアクセサリーの形を考えるための刺激や勉強は、アクセサリーを見る事ではなく建物を見ることでした。私が作るアクセサリーが立体的になって来たのは、きっとそれのせいなんだと思う。

いいビルの写真集

いいビルの写真集。いい階段の写真集も。猫の「雨」も。

共通して少し古い建物が好きなんだろうなとは思うけど、建築家もよく知らないし、詳しい年代もよく分からない。ただただ気に入った建物があると足を止めて見ていました。でもある時出会った本が私が気になっていた事をすべて説明してくれいて、この本のお陰で好きな建物の傾向も分かるようになりました。『いいビルの写真集』。そこには1950年から1970年頃に建てられたビルが沢山載っていて、建物の建築家の名前、年代なども全部書かれているという素晴らしい本で私のバイブルとして、いつでもすぐ手の届く場所へ置いています。そして開いてはニヤニヤして見る。

前回の「個展を開くということ」にも少し書いたのですが、個展「鉱物標本」をした「西谷ビル」もこの「いいビルの写真集」で紹介されていて、あの素晴らしい螺旋階段はこの本の背表紙も飾っています。出来ることならば、あの螺旋階段の下に布団を敷いて寝て暮らしたい。とういくらい好き。西谷ビルの螺旋階段。

東京建築巡り

ル・コルビュジエの代表的な建築作品のひとつとして世界文化遺産に登録されている国立西洋美術館の本館

国立西洋美術館の階段

2015年夏に取り壊されてしてしまった旧ホテルオークラ東京のロビーラウンジ
陶芸家で人間国宝の富本憲吉氏がデザインに携わったことで知られる

ロビーラウンジの一部は建て替えに際して再制作された

年に1回くらい東京一人旅させて貰うのですが、お店やカフェではなく建物を見て廻ります。事前に安いお宿を予約しておこうとしたら、2015年にはたまたまホテルオークラ東京が建て替えのために閉館する(ポール・スミスなど著名人も取り壊しに反対を唱えた)と知ってお宿はちょっと奮発してホテルオークラにしたり。

ル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館は一度目の旅行では時間が足りず…二度目は改修工事中…三度目の正直でやっと入館することが出来ました。

ホテルーオークラ東京へ向かう途中で見つけたマンション

でも実は目的地へ向かう途中ですれ違う無名の良い建物を見つけるのも面白い。どこにでもある経済高度成長期に建てられたらしい(これもいいビルの写真集で学んだ)マンションやビル。旅行じゃなくても、すれ違う建物に気を取られて眺めては写真を撮ったりなかなか目的地にたどり着けないときがあります。


編集部注:2015年のホテルオークラ東京の建て替えに際して、ファッションデザイナーのポール・スミスやマーガレット・ハウエル、インテリアデザイナーのローマン&ウィリアムズ、プロダクトデザイナーのマーク・ニューソン、建築家のスティーブン・ホール、ミュージシャンの野宮真貴など、国内外から多くの著名人が反対の声明を寄せ、「なくならないで、私のオークラ」としてメッセージビデオを公開した。

「何か作らないと!」彫金活動の原動力

東京へ行ったら必ず寄りたいのが東京駅のすぐ近くのKITTE館内にある歴史的建造物の旧東京中央郵便局舎を改装して誕生した「インターメディアテク」。ここも前回の「個展をひらくこと」で少し触れているのですが、東京大学が開学以来所持してきた鉱物標本、動物の骨の標本や剥製、どこかの民族の工芸品、研究資料などが展示されてます。そして展示に使われている什器が実際に大学で使われていた標本棚だったりで、よく見ると「◯◯学部」とタグが打ってあったり。そんなところを見るのも楽しい。前回は知人に勧められて鳥の剥製を中心に見てみたりと(カンムリウズラのちょんまげがマヌケで、ハッカンの羽の白黒模様が綺麗だった)何度見に行っても面白い。このインターメディアテクと西洋美術館と宝塚の手塚治虫記念館(建物関係ないけど膨大な数の手塚治虫作品を自由に読めるライブラリがある)は近くだったら通うのに…と思う。

彫金を始めたころより建物以外の色んな物や人に出会って影響されて、視野も興味も作りたい形やアイデアの詰め方の幅も広がって来てますが、やっぱり建築物を見た時に感じる「何か作らないと!」という気持ちは私の彫金活動の原動力です。

人は聞きたいと望んでいないかもしれない

1

12月20日公開

自分の言葉で何かを伝えるのはと...

幾何学模様のシンプルな形状。銀や真鍮の素朴な風合い。coeur ya.(クール ヤ.)のアクセサリーが持つ素朴で詩的な魅力の裏側には、これまで語られることのなかったストーリーがありました。

2

1月31日公開

coeur ya.が生まれた日

なんとなく、なんとなく、でも導かれるようにして進んだ先には、子どもの頃に心惹かれた「彫金」の世界がありました。彫金を仕事にするにあたって、初めに決めたふたつのこととは…。

3

2月28日公開

個展をひらくということ

2016年に初めて開催したギャラリーでの個展『鉱物標本』。テーマは「鉱物の結晶の形をしたアクセサリー」。当初は個展には消極的だったものの、作品の見せ方を模索する中で、声を掛けてくれたギャラリーや多くの人の協力もあり、coeur ya.さんの意識は徐々に個展の開催に向いていきました。

4

3月28日公開

原動力としての建築

立体的なアクセサリーのアイデアが生まれる原動力は意外なところにありました。年に一度の東京旅行で見るのは「建築」。良書『いいビルの写真集』を片手に、歴史的建築物から通りすがりの名もないビルまで、街には「何か作らないと!」と思わせる刺激があふれています。

5

4月25日公開

coeur ya. 作品集 – phenomena

定番品から展示会ごとのコンセプトに沿って作られたものまで、最近の作品を写真で振り返る「phenomena編」。ひとつひとつは一見無機質な幾何学模様のアクセサリーが、いくつも並べてみると様々に形を変えながら有機的に変化しているように見えます。

6

5月22日公開

coeur ya. 作品集 – philos...

前回自らセレクトした自作にひとつひとつコメントを添えた「philosophy」編。語られることを待っていたcoeur ya.のアクセサリーに込められた様々なエピソード。「人は聞きたいと望んでいないかもしれない」最終回。