Fukuda Akinobu

フクダ・ロングライフデザイン 代表

大阪福島の工務店フクダ・ロングライフデザインの代表。かつて関西の現代アート界に一石を投じた私設美術館「天保山現代館」の館長を務めた経験から、従来の工務店にはなかったアートな視点で建築と向き合う。

美術館の記録と記憶

3天保山現代館 – 体験型アート施設への道のり

前回までのあらすじ

不良物件だった天保山の倉庫を活用して「天保山現代館」を設立することになった福田さん。芸術性の高さと商業性を両立するために、これまでにはない新しいスタイルのエンターテイメントを模索しました。

Are Electronica, Photo by régime debate via Flickr

新しいスタイルのアートを求めて

阪神・淡路大震災を経て、「天保山現代館」という新たな器を想定したところから私たちの挑戦が始まりました。前身のSAMミュージアムからの移設準備期間はわずか約1年足らず。新しい美術館ではまだ誰も見たことのないような感動体験を提供する必要があります。エンターテイメントとアートが融合した作品を求め、日本国内はもちろん、アメリカやカナダ、ヨーロッパにまで視野を広げ、リサーチのために実際に足を運ぶことになりました。

テクノロジー時代の夜明け

1996年といえば、Windows 95が世界的にヒットした直後で、私たちにとってテクノロジーやインターネットが飛躍的に身近なものになった時代です。家庭用のデジタルカメラが発売されたのも同じころで、デジタル技術が映像表現やマルチメディアの可能性を広げる中、先端的なアートの世界ではいち早くそれに着目していました。

国内外でテクノロジーを利用した施設やイベントが増え、私たちが目指すべき方向性もそこにあることは明らかでした。ただ最先端の技術を紹介するだけではなく、そこにSAMミュージアムで培ったアート性を織り交ぜ、体感できるテクノロジーアート空間を作ることができれば、天保山現代館はその道のパイオニアになれるだろうという確信があったのです。

世界の体験型施設やイベント

当時私がリサーチのために訪れた施設やイベントをいくつか紹介します。

Exploratrium(エクスプラトリウム)
http://www.exploratorium.edu

exploratorium

サンフランシスコに1969年に開館した名立たる体験型サイエンス・ミュージアム。その名の通り来場者が自ら「Explore(探求)」することをコンセプトに、数百点の展示が常設されている。現在ではWEBサイトでも作品を閲覧することができ、50,000ページ以上のコンテンツを楽しむことができる。

住所:Pier 15 (Embarcadero at Green St) San Francisco, CA 94111
電話番号:(415) 528-4444
大人(18 – 64):$29
シニア、障害のある方、教員、学生、子ども(13 – 17):$24
子ども(4 – 12):$19
幼児(3歳以下)、会員:無料

※ 木曜日の夜間割引など、細かい料金設定あり。また、料金が変更される場合もあるため、詳しくは公式サイトをご覧ください。

 

SIGGRAPH(シーグラフ)
http://www.siggraph.org

siggraph

1974年から毎年アメリカで開催されるCGとインタラクティブテクノロジーの祭典。2008年からはアジア各地でも開催され、2015年は日本の神戸コンベンションセンターで開催された。

 

Ars Electronica(アルス・エレクトロニカ)
http://www.aec.at

ars

オーストリアのリンツで1986年から開催されているメディア・アートの世界的な祭典。毎年テーマが決められ、1996年は「Memesis – The Future of Evolution(ミーミシス – 進化の未来)」だった。

 

NTTインターコミュニケーションセンター(ICC)
http://www.ntticc.or.jp

icc

1989年以降、日本におけるメディア・アートの拠点となっている文化施設。日本の電話事業100周年の記念事業として、東京オペラシティタワー内にNTTが設立した。

住所:〒163-1404 東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階
電話番号:0120-144199
開館時間:11:00 – 18:00
オープン・スペース:無料
その他の展示・イヴェント:企画により料金が異なる
休館日:月曜日、年末年始、他

※ 時間や料金が変更される場合もあるため、詳しくは公式サイトをご覧ください。

 

東京都写真美術館 映像工夫館
http://www.syabi.com

syabi

写真や映像(アニメやテレビゲーム含む)の専門美術館として、1995年に東京・恵比寿ガーデンプレイス内に開館。2016年秋のリニューアルに向けて現在は閉館中。

住所:〒153-0062 東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内

※ 詳しくは公式サイトをご覧ください。

天保山現代館が進むべき道とは

Are Electronica, Photo by cea + via Flickr

これらの地で実際に体験した、アートやテクノロジーを駆使したエンターテイメント。それは、期待を大きく上回り、これまで体感したことのない、とてもエキサイティングなものでした。

アートとは、テクノロジーとは、こんなにも人をワクワクさせて楽しませることができるものなんだ!!

それは私がひとりのアートを楽しむ現代人として率直に感じたことでした。そして当時の私には美術館の館長としての顔もありました。技術立国の日本にこそ、このようなアートとテクノロジーの垣根のない作品を体感できる空間が必要だと、強く感じたのでした。

この辺りから、天保山現代館の常設展示の方向性が定まっていきました。しかしながら、私が衝撃を受けた世界レベルの施設やイベントに比べれば、天保山現代館は所詮はいち民間のミュージアム。少予算でありながら、訪れる人に衝撃的な感動を与えられるためにはどうしたらいいのだろう?そんな大きな壁が私の前に立ちはだかっていました。

美術館の記録と記憶

1

8月31日公開

SAMミュージアム(大阪ベイエリア)

前職は私設ミュージアムの館長という特異な経歴を持つ住宅工務店の福田さん。アートとビジネスの間で揺れた20代の日々と、天保山でかつて一世を風靡した『天保山現代館』と前身の『SAMミュージアム』の歴史を振り返ります。

2

10月27日公開

SAMミュージアムから天保山現代館へ

大学卒業後、思いがけずミュージアムの館長となった福田明伸さん。アートとビジネスの間で試行錯誤しつつも、『SAMミュージアム』の運営がようやく軌道に乗りはじめた頃…、阪神・淡路大震災をきっかけに転機が訪れます。

3

11月24日公開

天保山現代館 – 体験型アー...

SAMミュージアムから天保山現代館へ。まったく新しいアート体験を模索した福田館長(当時27歳)が、エンターテイメントとアートが融合したまったく新しい体験型美術館をつくるために、世界中をリサーチして回りました。

4

12月29日公開

天保山現代館の軌跡

かつて大阪の天保山にあった私設美術館「天保山現代館」。その記録と記憶を辿る連載の最終回では、元館長の福田さんが個性的で印象深い展示の数々の軌跡を辿ります。