Kubota Jun

画家

1956年東京生まれ。東京藝術大学形成デザイン科卒業。会社員、フリーランスでの広告の仕事を経て2009年より絵画を発表。個展・グループ展等多数。鎌倉在住。

連載中雲の行方

2自己紹介とか近況など。

マンガを描くのが好きだった少年から広告の仕事へ

「水浴図」2010 キャンバス・油彩

子どものころはマンガを描くのが好きでした。家でも学校でもよく描きました。小学校を2度転校したのですが、いじめを体験しなかったのはマンガが描けたからではないかと思います。

やがて美大を目指すようになり、一年浪人して美術大学のデザイン科に進みました。さらに一年留年して外資系の広告代理店に就職しました。

広告代理店を4年で辞め、ぶらぶらと過ごし始めました。テレビコマーシャルの絵コンテ(外資系だったからストーリーボードと呼んでいました)を描く仕事を辞めた後もその会社から発注してもらい、それで暮らすに困らない収入を得ることができたのです。当時はバブル前夜とでもいう状況で、広告業界は仕事が溢れていて、サラリーマン時代に知己を得た方々が経験4年の若造にでもずいぶん仕事を出してくれたものです。そんないきさつで、テレビコマーシャルの企画もずいぶんやりましたし、その流れでディレクターをやるようになりました。

「水浴図」2010 キャンバス・油彩

しかし、ある日、アトピー性皮膚炎を発症してしまい、病院を巡り、漢方に行き当たり、数年に渡る治療でようやく完治しました。それが契機となって「このまま、この仕事を続けていて良いのだろうか」と考えるようになり、テレビコマーシャルのディレクターを辞めることにしたのです。2007年のことで、51歳になっていました。

鎌倉の大町の奥の、今は崩落して通れない釈迦堂切り通し近くの家にこもって絵を描き、それを2009年に表参道画廊で発表しました。主題は「波乗り」。個展のタイトルは「水浴図」。前回も書きましたが、波乗りをしながら波乗りの絵を描く、というのは、絵を描くために波乗りが必要だということで、完璧な生活の循環を思いついた、と思ったものでした。

鎌倉にこもる

「雲を出す」2014 キャンバス・油彩

今思えば、テレビコマーシャルの仕事に疲れ果てていたのでしょう。絵を描く日々は、絵の進行こそ決して順調ではありませんでしたが充実していました。東京にもほとんど出なかったように思います。東京と離れられたことに喜びを感じていました。

そもそも美術大学に進学した発端は、子供のころの「絵を描くことが好きである」という気持ちでした。デザイン科に進んだのは就職を考えたからで、後付けです。わたしは悶々と考え、それをリセットすることにしました。「死ぬまで絵を描く」ということを決めると、気持ちがとても楽になりました。それが今も続いているのです。

絵を描く暮らし

「聴覚」2014 キャンバス・油彩

絵を描く暮らしというのは単純です。日々絵を描き、ときおり発表する、というだけのものです。それでもわたしにとってはずいぶんやることがあるのです。昨年は3回個展をやり、なかなか忙しいような気がしました。今年は後半に2つの展示、個展とふたり展を予定しています。ひとつは、少女と猫の物語形式の展示で、平塚にあるGALLERY COOCAで考えています。当てはないのですが、これをそれまでに絵本として出版できないかな、と考えています。もうひとつは鎌倉の小町にあるGALLERY 一翠堂での展示。大学の先輩、沼田博美さんと、鎌倉の風景を巡る何かを展示したいと思案中です。前半にもひとつ、鎌倉でやるかもしれない。

そういえば、今年の一年の計は「時間を大切に使う」です。時間こそが老若男女貧富を問わず人が平等に持っているものだと、日々感じています。

連載中雲の行方

1

12月19日公開

絵と言葉・絵本『なみにのる』

鎌倉に住む大きな理由は波乗りができるということ。「絵を描くために波乗りが必要だ」という口実がぴったりな画家の久保田さんは、文字通り暮らしと波乗りと絵画が密接な関係で結びついた日々を鎌倉で過ごしています。2017年には初めての絵本『なみにのる』を上梓し、原画展も開催しました。絵に添えられた言葉と、その言葉が喚起するイメージ。それはまるでお互いを映し合う久保田さんと波乗りの関係のようです。

2

1月23日公開

自己紹介とか近況など。

漫画を描くのが好きだった幼少期、広告代理店勤務を経て、CM制作に携わった日々。そして、50代になり、そんな暮しから離れて鎌倉に居を移し、波と向き合って絵を描く暮らしが始まりました。波乗りをしながら波乗りの絵を描く、そのためには日々波に乗ることが必要だ、という完璧な生活の循環を思いつき、「死ぬまで絵を描く」と心に決めた久保田さんがたどり着いた心境とは…。

3

2月20日公開

見る・読む・聞く・絵画・言語・...

久保田さんが最近訪れた東京の展示を3つ紹介。「本という樹、図書館という森」「谷川俊太郎展」そして「坂本龍一with高谷史郎|設置音楽 2 《IS YOUR TIME》」。言葉、音、映像。それぞれ特性の異なる表現手段が、久保田さんの絵画にどのような刺激と共感を与えたのでしょうか。

4

3月20日公開

マンガをめぐる記憶。

手塚治虫、横山光輝、赤塚不二夫など、漫画の黄金時代に幼少期を過ごした久保田さん。中でも格別に心を惹かれたのは石森章太郎の作品でした。当時、実験マンガ『ジュン』の描き出す斬新な世界に魅了された久保田さんにとって、マンガは今でも絵画とはまた一味違った魅力を持ち続けています。

5

4月17日公開

わたしの絵画を支えている、いく...

久保田さんの絵を支えている4つの要素。デザイン、線、色彩、そしてモチーフ。それらは絵画の基本でありながら、今でも久保田さんを魅了して止まない絵画の魅力そのものです。絵を描くということは、自由なようで実はスポーツのようにルールに沿っています。しかしそれが何のスポーツなのか…絵が仕上がるまで描いている本人にもわからないそうです。

6

5月15日公開

「猫と少女の絵本」についての覚書。

猫と少女についての絵を描くことになった久保田さん。細かい設定や実在のモデルを想定しながら感じる苦悩は、なんと前職のCMディレクターの仕事にも通ずるものだったのです。自由を求めて画家になったはずなのに、また同じところへ戻ってしまうのだろうか?それとも…。絵画、そして言葉と向き合う日々の中で、久保田さんは今日も雲を追うように新たな表現を探しています。連載最終回。