Arita Masafumi

japonica izumonesia graphicc 代表

未発掘の同時代フォークロアをスケッチして布や紙に表現。・・美術大学をはじめとする様々な教育機関で後進の育成に携わるなか、独自のテキスタイル図案で大衆文化に絵心を添えている。

イズモネシアのテキスタイル

6100年後に残るもの

テキスタイルの未来

超未来のスターシップのエスキースとテキスタイルパターン

テキスタイルの未来について考えるとき、現在の発想を遥かに超えた新しい表現領域を思い浮かべることが出来ます。現在、布地は包み守る機能に加え、空間を演出したり、四季や流行に沿った装飾をもたらしてくれますが、今後はファイバー(繊維)としての側面にも注目が集まっていきそうです。テクノロジーの進歩は、先端医療や宇宙技術のスピンオフとして、テキスタイルの分野にも丈夫で軽やかな素材を提供してくれるでしょうし、脳波や体温を知覚してデータ化し適切な処置を施す「思考する繊維」の登場も夢ではありません。

また国際的な投資の流れとして、これまで有用化されてきた石油系繊維の生産は徐々に減っていき、人肌に優しく土にも帰りやすい自然素材の安定的な生産が準備されているようです。近い将来、鮮やかな発色や発光性を持つ有機素材も出てくるでしょうし、染料や顔料の開発もオーガニックな方向に進むでしょう。

そして、「肌触りを極める」といった、より感覚的な探求も同時進行していくと思われます。もっと先には、宇宙空間での作業や次の氷河期の到来にも対応出来るような “第二の皮膚” が構想され、なにかを包みながらも未知の回路を開いていくような、“量子的な布地(?)”といったSFのような着想さえ生まれてくるかもしれません。

未来から過去へ、時代を横断するテキスタイル

日本人の縄文的な素地をエキゾティックな視点で描いたエスキース

未来の眼差しは過去にも向けられ、発掘された古代の繊維質から祖先が着用していた布地を復元したり、様々な時代に生み出された織物や染物、そして刺繍等の修復作業も、当時の鮮やかさを再現出来るレベルで進んでいくでしょう。

30年前、現在のネット社会に繋がる構想を、一部の開発者しか理解出来なかったように、30年後に実現するかもしれない開発計画は、水面下で既に始まっていそうです。

今後は更にジェンダーの概念が柔軟になり、身体とテクノロジーの境界線が無くなっていき、少子化に伴う移民の受け入れ等も重なるなか、これまで日本人には馴染みの薄かった多様な文化が浸透していくと言われています。

日本人が育んできた美意識

架空の未来都市「Izumonesia」のエスキース

そんな中、日本人が育んできた自然界と調和したミニマムな美意識が、世界全体に向けて、より普遍的な広がりをみせていくかもしれません。

京都の古い街並みが流行りのカフェよりも未来に残っていくように、100年〜200年と変わることなく親しまれ深められ、文化圏を超えて見直されていくような布表現は、ひとつの理想と言えます。伊勢の遷宮のような伝統技術の継承と、若い世代ならではの新しく開かれた感受性が交わるところに、未来のスタンダードを生み出していく可能性を感じます。

私は今、保育園の絵のワークショップから美術大学の卒業制作指導に至るまで、たくさんの若い世代と描く喜びを共有していますが、もしも彼ら彼女らが、何十年か後に宇宙エレベーターから地球を展望するとしたら、その時、どんな室内で、どのような服装で過ごしているのか?そこにはキラキラとした無限の可能性を感じることが出来ます。そして、どんな時代が巡ってきても、テキスタイルの役割や表現領域は廃れることなく、普遍性と刷新性が交わるなかで、益々豊かな魅力を帯びていくのだと思います。

New Esperanto Label × cocca

「三姉妹」の構想のきっかけとなったエスキース

現在、代官山coccaの企画枠で、New Esperanto Label の新シリーズを制作しています。そこではトラディショナルな織柄、ファンタジックなプリント柄、フォークロアな刺繍柄、と架空の三姉妹に擬えた織・染・刺繍の製品展開を進めていて、三種類の靴下も同時に発表する予定です。

New Esperanto Label の旧シリーズでは「新鮮な懐かしさ」、IZUMONESIAのシリーズでは「新しいフォークロア文脈の発掘」がテーマでしたが、それぞれ発表から10年を超えて親しんでいただけていることが大きな励みになっています。

新しいプリントテキスタイルのためのエスキース

新シリーズでは、今の時代にもう響かなくなってしまった舶来趣味や異国情緒のニュアンスを、同時代的な角度からもう一度楽しめないか、そして「ジュニアそれいゆ」や「Olive」の読者が少女時代にワクワクしたような初々しいトキメキを添えることが出来ないか模索しています。

“三姉妹”とは私の中にある創造的な源泉の象徴であり、coccaのスタッフを交えた三人のクルーでもあり、三つの世代を紡いでいくようなニュアンスも込められています。

未来に繋がる一歩一歩

「100年続く何かがあれば、それは伝統になる。」
この一歩一歩が未来に繋がっていくように、今日も造形と教育の場に出向けること、そして沢山のご縁と支えの中で、新しい表現の機会に挑んでいけることに、心から感謝しています。

イズモネシアのテキスタイル

1

3月8日公開

Izumonesia – 出雲のDNAが...

シンプルな色と線が織りなす図案の中にどこか懐かしさを感じる有田昌史さんのテキスタイル。作品を生み出すためのインスピレーションとなるのはその土地に根ざした心象風景。ご自身の出身地である島根県出雲に伝承される文化や神話が色濃く反映されています。

2

4月12日公開

Textiles & Objects – 都市...

テキスタイルがまだ現在のように固有の芸術的地位を確立していなかった頃、有田さんの生み出す作品はファッションやデザインの世界で注目され、「新しいフォークロア感覚を布に描いて衣食住へと広げたい!」という初期の想いが結実していきました。

3

5月18日公開

small villageの色と形

現在は東京都町田市にある「しぜんの国保育園」内のsmall villageを拠点にしている有田さん。「子どもの成長、発達に寄与する人はすべて保育者」という園の基本理念に賛同し、自然豊かな環境で子どもたちに囲まれて創作活動を行っています。

4

6月18日公開

ものづくりとコミュニケーション

自ら描いた図案が暮らしの中の様々な場面で活用されること、有田さんはそこにテキスタイルの魅力を見出します。また、その制作過程において多くの人々が関わり、ものづくりを通じたコミュニケーションが生まれることもテキスタイルの醍醐味です。

5

8月9日公開

カンバスとしてのハンカチーフ

新しい表現活動の場として有田さんが注目するのはハンカチーフ。そのシンプルな形状と、安価でリスクの少ない素材は、テキスタイルの世界にポップでバリエーションに富んだ表現の広がりをもたらしてくれます。

6

9月13日公開

100年後に残るもの

100年後の未来に残るもの…。有田さんは、変わることなく親しまれる普遍的な魅力を持った未来のテキスタイル表現に思いを馳せます。いつか最新のテクノロジーを使った画期的な新素材が開発されたとしても、テキスタイルの役割は形を変えながら残り続けるでしょう。